第65話

 翌日、文化祭二日目にして最終日。

 今日も俺たちのクラスはいつものように開店準備に勤しむ。


「いよいよ最後かー、これが終わったら体育祭だっけ?」


「そうだ。それが終わったらいよいよ受験生だぞ?」


「うへぇ……勉強嫌だよぉ」


 俺だって嫌だけど、やりたいことの為に勉強するしかない。


「輝ー、準備終わったかー?」


「今ちょうど終わったからそっち行くわ」


 さて、二日目も頑張りますか!






 ☆







 あれから特に問題なく繁盛していて、このまま行けば最優秀賞を貰えそうな雰囲気になってきていた。

 だからと言って気を緩めず、最後までやりきる。


「奏ちゃーん、東條君と一緒に休憩入っていいよー」


「ん……てる」


「わりぃな、後は任せた」


「うん!最後の文化祭楽しんできなよ!」


 クラスメイトに見守られながら最後の文化祭デートへ。

 俺と総司はアイコンタクトを交わし、奏と一緒にクラスの外へと出た。


「奏、今日はどうする?」


「ずっと居る」


「いやそうじゃなくて……どっか行きたいとかあれ食べたいとかない?」


「ない」


 即答……。


「最後なんだから、流石に思い出作ろうぜ?」


「むう……一緒に居るだけでいいの」


 そうは言っても今はもうあの頃と違って、幼馴染じゃなく恋人。

 幼馴染だった去年とは違う。


「そう……でも俺は、ちょっと嫌かな」


 奏は頬を赤く染めて、袖をぎゅっと掴んでいた。


「……てるの、バカ」


「照れてる?」


「照れて、ない……」


 さっきよりも真っ赤になって、俺の胸に顔を埋めた。

 俺はその姿が可愛くて、愛おしくて、優しく抱きしめて頭を撫でた。


「そういうところ、俺は好きだよ」


「ふあっ……うぅ~っ」


 耳まで真っ赤になった奏は、周りの人達に温かい視線を向けられた。

 そんな幸せな時間がいつまでも続くと思っていた。





 ☆






 奏が落ち着いた後はクレープが食べたいと言い出して、俺はクレープ屋に向かい奏の好きな苺味を買った。


「ほら奏」


「……ありがと、えへへ」


 クレープを渡して、人気のない場所で二人きりになった。

 奏は美味しくクレープを頬張り、俺はスマホを取り出して総司からの連絡がないか確認する。

 今のところ何の連絡もなかった。


「あれ、もう食べ終えたのか?」


「……うん、美味しかった」


 奏は少し微笑んでクレープを包んでいた包装紙を捨てる為にゴミ箱へ向かった。

 すぐそこだから、そこまで気にしなくても良いだろと思っていたら、突然頭を殴られた。


「がっ……!」


「てめえ!何してやがる!」


 何処からか総司の声が聞こえて、たまたま近くに居た一般客がその犯人を取り押さえて、総司は俺の元へ駆け寄る。


「輝!?おい大丈夫か?!」


「お、せぇ……だよ……」


 打ちどころが悪かったのか、うまく呂律が回らない。

 徐々に周りの音が聞こえなくなってきて、意識が遠のいていく。


「――る!お――て!」


(もう何言ってるのか、分かんねえよ……)


 そのまま俺は意識を手放した。

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