第64話
笑顔になった奏と出店を回り、一日目を無事に終えた。
教室へ戻ると、いいんちょと会計役と文化祭実行委員らが、今日の売り上げと他のクラスの集計を比べながら、明日に向けての話し合いを始めていた。
ちなみに俺はというと、総司に奏が誰かに付きまとわれている事を打ち明けてた。
「―――ってことがあってな、俺一人で解決出来れば良いけど。そう簡単に上手くいくとは思わないから協力してくれねえか?」
「ああ、いいぜ。なんなら他の奴らにも声掛けようか?」
「それはやめてくれ、なるべく穏便に済ませたいからさ。それに……」
俺は奏に視線を移すと、偶然というべきか目が合い、小さく手を振って楽しく村瀬達と話し合っていた。
「……あんなに楽しそうにしてる奏を不安にさせるわけにはいかねえだろ?」
「なんというか、お前らしいな」
「お前も逆の立場なら同じことしてるって、じゃあ明日頼むぜ」
俺達は拳を合わせ、それぞれの持ち場に戻り明日の予定を確認、その後解散した。
☆
その帰り道。お互い制服で帰路につき、いつも通り二人きり。
「文化祭……明日で終わり、だね」
「そうだな、もう終わっちゃうんだな」
「あっという間、だったね」
特に今年は色々ありすぎて、何もかもが楽しくて時間の流れが早く感じる。
「……文化祭終わったら、体育祭」
「そういやそんなのあったな」
まあどうせ俺達は出る種目はほぼ決まっているようなもの。
俺は短距離走とクラス対抗リレー、奏は借り物競争。
「今年もアンカーなんかな」
「……嫌?」
「嫌ってわけじゃないんだけど、今年は運動してないからそんなに体力ないよって」
二年の夏に野球を辞めてからというもの、運動は一切せずずっと家でのんびりと過ごしていて、なんならこうして付き合うまではずっと一人でゲームだのしていた。
そのせいもあり、現役時代より体力はかなり落ちている。
「てるなら大丈夫」
「ありがとう、そう言って貰えるだけ嬉しいよ俺は」
そんな時、誰かに見られているような視線を感じた。
幸い奏は気付いてないが、俺が後ろを向いたことによって奏は不思議そうな表情で俺を見ていた。
「……どうしたの?」
「いや、なんでもない。明日に備えてさっさと帰ろう」
少なくとも俺はこの時に視線の意図を気付けば、あんなことにはならずに済んだと、今でも後悔をしている。
☆
お互い帰宅して、風呂を入り終え部屋に帰る途中。
自分の部屋で少し勉強していたら、自分のスマホが震え出した。
「こんな時間に誰だ……?」
どうせ総司だろと思って画面を見ると、案の定総司からで内容も非常にふざけたものだった。
俺はスルーして、ペンを走らせると今度は着信音が鳴り響いた。
俺は画面を見ずに通話に出て、総司に文句を言った。
「総司、俺今忙し―――」
『……てる?加東君と何かあった?』
まさかの奏で俺は数秒の間、黙り込んだ。
『てる?』
「え?あ、わ、わりぃ……総司かと思ってさ」
『何かしてた?』
「ちょっと受験勉強、ちょっとでもやっておこうかなって」
ちょうどいい時間ってのもあり、俺は勉強を切り上げて奏が寝るまでずっと談笑していた。
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