第63話
休憩室から出た俺は、再び仕事に戻ってクラスの売り上げに少しでも貢献するべく、奮闘した。
といっても俺は裏方仕事で、奏や村瀬のように接客はやらない。
それからある程度が時間が経ち、今日の仕事が終わって休憩室に向かうと、可愛らしい寝息と共にすやすやと眠っていて、起きるまで俺は隣で休憩していた。
しばらく休憩していると奏がそっと手を握っていて、隣を見ると奏は起きていた。
「おはよう奏、よく眠れたか?」
「おはよ……恥ずかし」
寝顔を見られた事が恥ずかしかったのか、頬を赤く染めていた。
「そろそろ行くか?」
「うん…じゃあ着替えてくる」
「あー……その事なんだけどさ、そのままで行かねえか?」
再び休憩する際に、村瀬からコスプレしたまま店を宣伝して欲しいと言われ、俺としてはあまりこの姿を見せるのは好ましくない。
だけど、売り上げ一位を取るためには必要なことである事は間違いないから、誰かがやらなければならない。
でも出来れば無理強いはしたくないから、奏の返答次第。
「てると一緒なら……いいよ?」
「ほ、本当に良いのか……?」
小さく頷いた奏は、少しだけ表情が暗くて、一瞬でいつもの表情に戻るのを見逃さなかった。
「嫌なら嫌って———」
「大丈夫、てるが居てくれるから」
そんなこと言うな―――と、言いたかった。
☆
そんなこんなで、奏と一緒に文化祭デート。
周りの学生や一般客の視線を集めているせいか、奏は耳まで真っ赤にして腕に抱き着いていた。
なんだかんだ言ってその姿が可愛くて、愛おしくて、こんな可愛い彼女である奏を、誰にも渡したくない。
「あー……何か欲しいものあるか?」
激しく横に首を振り、力を込めていた。
そんな時だ。不自然な視線を感じたのは。
(なんだこの視線は……?)
その視線は、今まで感じたことがないぐらい不愉快で、吐き気がするぐらいだった。
俺は周囲を見渡して視線の主を探そうとするも、人が余りにも多すぎて見つけらなかった。
「いかないで……ずっとそばに居て……」
「でも……流石にこのままは……」
流石にこのままデートなんて出来ない。このままだと俺たちの中で一番最悪な思い出になってしまう。
出来ればこの不安を解消してやりたい。
「……分かった。今は奏の傍に居るよ」
「!じゃあ……」
「ただし、やべえ事になったら全力で奏を守ってやる」
とにかく俺は奏を守ることに集中しながら、最後の文化祭を楽しむだけだ。
「ねえ……頭撫でて?」
「それぐらいなら、お安い御用だ」
「んっ……えへへ、これ好き」
不安そうな表情をしていた奏は、頭を撫でたことによって表情が笑顔になった。
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