第62話 奏視点 視線
てると仲直りして更に数日が経ち、私達の破局の噂は完全に消え去って、文化祭に向けての準備が終わりを迎え、本番が近付いてきた。
今日もてると一緒に帰路につくが、最近誰かに跡をつけられているような気がした。
「どうした奏?後ろなんか見て……」
「う、ううん……なんでも」
心配かけたくなくて笑顔で答えるけど、でもやっぱり怖くて、手が少しだけ震えた。
でも、てるはそれに気付いて、優しく手を握ってくれた。
「なんかあったろ?話してよ」
「……誰かに見られてる気がして」
今はその視線は消えたけど、喧嘩していた時はよく独りで居ることが多かったから、その視線を感じることが多かった。
てると仲直りした今はあの時ほどの視線を感じなくなったのに、今日またその視線を感じた。
「そうなんだ……それは喧嘩したあの時から?」
「……うん」
「……じゃあ、なるべく一緒に居るようにしないとな」
てるは優しく微笑んで、この日から一緒に居てくれるようになった。
☆
てると一緒に居ることが多くなってから更に数日が経ち、文化祭初日。
一般人も入ることが出来るこの文化祭。沢山の人が来るから、一度でも離れてしまうと迷子になりやすく、よく迷子の案内放送が流れることが多い。
千花はというと、最初あんなに嫌がっていたコスプレも、当日になればそんなことすら忘れるぐらい気合が入っていた。
「奏、いよいよだね」
「うん、頑張ろ」
文化祭実行委員の人達による最終確認が終えた後、会長が皆に発破を掛けた。
「皆さん!収益トップ目指して、頑張りましょう!」
こうして、私達最期の文化祭が始まった。
☆
初日とはいえ、やはりコスプレ衣装というのもあって、かなり大繁盛していてかなり忙しかった。
時間もそろそろ休憩に入れるはずなのに、繁盛しすぎてそれすら出来ずにいる。
「奏ちゃーん!ごめん!休憩入っていいよ!」
「ん、後はお願い」
私は休憩室に向かうと、ちょうどてるも休憩してて先に休憩しているクラスの子と談笑していた。
「お?噂をすればって奴?」
「お熱いねー、お邪魔虫は退散しますかね」
「お、おい!お前ら……!」
一体何の話してたんだろ?てるの顔も若干赤いような……?
「…てる?」
「えっ…えと、大丈夫だった?」
「……何が?」
「ほら……前言ってたじゃん。誰かにつけられてるって」
そういえば、前にそんなこと言ってたような気がする。
「今のところ大丈夫」
「そう、ヤバかったら言ってくれ。飛んでくるから」
「…じゃあ、一緒に回ろ?」
怖いからとか寂しいからとかじゃなく、文化祭デートとして。
「それは勿論、でも俺はこの後仕事だから。それまで待っててくれるなら」
「……じゃあ待ってる」
「分かった。それまでここに居るか?それよりも誰か友達と一緒に回るか?」
「ここで待ってる」
今一人で何処か回ったら、なんか危ない事に巻き込まれる気がする。
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