第61話 奏視点 仲直り

 てると喧嘩してから数日が経ち、私はてるのことを嫌いになった訳ではなく、ただなんとなく会いたくなかった。

 そのせいもあってか、てるは私と会わなくなって周りからはもう別れたなんていう噂が立ち始めた。

 そして放課後、帰ろうとした私を呼び止めて、。


「……奏、本当にこのままでいいの?」


「奏ちゃん、このままだと東條君、他の子と付き合っちゃうことになっちゃうよ?」


 何と言われようとも私は会うことを拒む。


「奏!本当にどうしちゃったのよ?!あんなに幸せそうな顔してたのに……!」


「本当に好きだから……会いたくないの」


 あんなに怒って、泣いて、避けてるのに、やっぱりてるのことを忘れることが出来ない。

 それぐらい好きになって、愛しているから。


「じゃあなんで———」


「村瀬さん、もういいでしょう」


 会長は千花を遮って私に近付いて、私の頬を叩いた。


「……見損ないました。貴女なら東條君を任せられると思ったのに」


「っ!」


 ならを任せられる……?


「これじゃあ東條君が可哀想です。いえ、東條君の事がが可哀想です。」


 私は悪口を言われたと思って会長を睨むが、大して効果がないのか会長は余裕そうな表情を浮かべた。


「今の貴女がやってることはです。でも奏ちゃんはそんなことをする人じゃない」


「!」


「もっと一緒に居たいんでしょ?まだ東條君の事が好きなんでしょ?だったら早く謝って、本当に仲が良いとこもっと見せてよ」


 会長はさっきとは違って優しい表情をしながら、私の頭をまるでお母さんのように優しく撫でた。

 それがとても心地良かった。


「……分かった」


「本当に奏ちゃんは可愛いね、東條君が惚れちゃうのも納得しちゃうなぁ」


「そう?えへへ……」


 てる以外の人に言われたのは初めてで、慣れてない私は照れ笑い。





 ☆






 教室から出た私は、てるを探し回った。

 てるに逢いたい、抱き着きたい、抱き締められたい、声が聴きたい、もうそれしか考えてなくて、謝るなんて言葉はこの時既に忘れていた。

 しばらく歩き回っていたら寂しそうな表情のてるを見つけて、足が止まる。


「はぁ……奏」


 てるが居た。だから私は近付こうと歩み寄ろうとしたら、傍に居たのは私じゃなくててるの後輩だった。

 まさか本当に私はフラれたのかな……?一度考え出したら止まらなくなり、この場を去ろうとしたら、後輩の子に気付かれた。


「あのー先輩、彼女さん来てますよ?」


「……奏!」


「えと……ご、ごめ―――」


 謝ろうとしたら、突然てるに抱き締められ頭の中が真っ白になった。


「奏ごめん!あんな無責任なことして……本当にごめん!」


 抱き締めている腕に更に力が入って、少し苦しい。


「前にも言ったと思うけど、やっぱり俺……奏が傍に居てくれないと何も出来ないんだ。だからまた傍に居て欲しい。今回みたいに嫌だったら嫌って言ってくれてもいいから」


「……私こそ、ごめん」


 許すも何も、全部私が悪いんだから……。


「先輩!良かったですね?仲直り出来て」


「まあ、な……ありがとな」


「じゃあ私はこの辺で失礼します。先輩、お幸せに」


 てるの後輩は私達の元から離れていき、いつもの二人きり。


「俺達も戻ろうか、かな———」


 今まではてるからすることが多かったキスは、今日は私からすることになった。

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