第57話

 クラスが文化祭の出し物についての討論の最中、俺は外の景色を見ていると奏が隣の席に座った。

 あまり騒がしいのが好きじゃない奏は、俺にしか見えないように可愛らしく微笑んでいた。


「てるは行かないの?」


「何処に?」


「皆のとこ」


「決まれば行く、どうせ喫茶店だろうし」


 必死になって阻止しようとしてる村瀬だが、誰も味方が居なくて少し可哀想ではあるが、売上一位を取ると景品が出る以上は避けては通れない道。

 だから皆必死に村瀬を説得している。


「何喫茶になりそう?」


「流石に出来てもメイドか和服ぐらいじゃねえかな、あんまり凝ったのをやり出すと時間掛かるし」


 と言っても、あのうるさい所から流れてくる情報を自分なりに整理しているだけなのだが。


「和服……!」


 奏は和服が着たいのか、目を輝かせていた。


「奏は着てみたいのか?」


 小さな子供のように大きく上下に頭を振る奏。


「おーい、村瀬ー。奏が和服着たいってさー」


「ちょ……っ!ちょっと奏?!」


 村瀬は唯一の味方だと思っていた奏の突然の裏切りに驚き、考え直す為にこちらにやってきた。

 その行動の早さに俺は驚きを隠せなかった。


「奏、ほっんとーに着たいの?」


「……だめ?」


 伝家の宝刀上目遣い、村瀬を除く女子は半ば諦め状態で男子は奏の上目遣いにやられていた。

 対する村瀬はというと。


「奏が着たくても、私はぜっっっったいに嫌だからね?!」


「ちょっと千花酷くない?」


「そうよそうよ、ちょっと加東君なんとか言ってよー」


 威圧感を感じる視線を飛ばす村瀬と、平気な総司。


「諦めろ千花、あの奏ちゃんにこう言われてるのに断るわけにはいかねえんだ」


「だ、だからって……なんで私が……」


「この通りだ……!頼む千花!」


 クラスメイトが見守る中、土下座までする総司に結局折れたのは村瀬で、俺は謎の既視感を覚えた。






 ☆






 放課後、いつもの四人で教室に残っていた。

 村瀬は自分の席でかなり落ち込んでいて、総司が謝りながらなんとか機嫌を取る。

 対する奏は上機嫌で、借りて着ることになった衣装の本を見ながら、時折俺に見せてきたりしていた。


「どう?」


「可愛いよ」


「むう……っ、じゃあこれは?」


 何着ても似合うし、可愛いからそれ以外言うことないんだけど……奏はご不満らしい。

 でも奏が着るのはこの本のいずれかの一着だけ。


「あ、んんっ……てる?」


「奏はこの中では何が気に入ってるんだ?」


「……これとこれ」


 奏が気に入っているのは緑色を基調とした花柄の和服と、水色を基調とした涼しげな絵が描かれている和服。

 脳内で奏が着た姿を想像するが、どちらも似合っていた。


「奏は何色が好きだっけ?」


「青色」


「じゃあこの水色にしよう」


「水色……!えへへっ」


 あーいちいち可愛いなぁもう……!

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