第55話 奏視点 好きな理由2

 会えなくて寂しくて抱きついたあの瞬間から、てるのことが好きなんだと気付いた。

 それは友達や兄妹とは違う感情、今抱いてる感情そのものがあの頃からずっとだ。


 自覚してから私は、勉強にお料理を精一杯頑張って今に至る。







 ☆







「――そうなんだ。なんだか可愛らしいエピソードだね」


「そんなことない……もん」


「ふふっ……そういうところが可愛いんだってば」


 すると、てるが手を急に繋いできた。

 私は訳が分からず、顔を真っ赤にしてまた俯いた。


「顔真っ赤だね、ふふっ」


 私はなにも言えずそのまま、目を瞑ると急に眠たくなってきてそのまま寝てしまった。





 ☆





 少しだけ寝ていたら、てるの声が聞こえた。

 誰かと話をしていて、流石に邪魔は出来ない。


「――それ以前に告白されちゃったら、いいんちょとこうなってたかもしれない」


 偶然だけどそこだけが聞こえて、少しだけ胸の中がもやもやして、目を閉じたままてるの手をつねった。

 てるが他の女の子と会話してるのが嫌なんじゃなくて、離れちゃうのが嫌なだけ。


「あまり私を困らせないで、奏ちゃんが可哀想だよ」


「……そうだな」


「じゃあ、また明日ね」


 ゆっくりと目を開けると、一葉会長の姿はなく優しい顔で微笑むてるだけだった。

 いつも見てるその顔が格好良すぎて、慌てて目を逸らす。


「俺達も帰ろう」


 私は小さく頷き、お弁当箱を片付けて鞄を持って、教室を出た。


「……ねえ、てる」


「んー、なんだ?」


「ん……っ」


 今までは成り行きで繋いでいたこの手を、自分から繋ぎたいという意思を見せた私。

 それが分かってたのかは分からない、てるは優しく包み込んでくれた。


「手、繋ぎたいんだろ?」


 小さく頷く私。


「じゃあ改めて帰ろっか」


「うん……てるのそういうとこ、好き」


「んー?何か言ったか?」


「なんでも、えへへ……っ」


 あの時にてるが私の事好きだって言ってくれた時は、本気で嬉しかった。付き合うって言ってくれたのも嬉しかった。

 てるにはあえて話してなかったけど、本当の夢はてるのお嫁さんになることなんだよ。






 ☆






 学校を出た後、いつものように帰路に就いていると、学校を出る時にふと考えてた事を思い出す。

 よく周りから、主に千花だけどくーでれ?みたいなことを言われたのを思い出す。

 なんでそう呼ばれるのかは分からないけど、今ならその理由が分かるかもしれない。


「ねえ、てる」


「どした?」


「くーでれ……って何?」


「クーデレ?んー……そうだなぁ」


 まずその言葉が何なのかが理解出来ていない。


「まずクーデレは二種類に分かれるらしいんだ。普段はクールな表情を見せて二人きりになったらデレデレするタイプと、普段クールでも場所関係なしに堂々とデレデレするタイプ。奏だと前者の方が近いかな?」


 へー、そうなんだと思いながら、頭の中で整理すると後者はてるに当てはまった。


「クラスメイトから聞いただけから基準がなんなのか、よく分からねえけど……」


 でもくーるって何だろう?私は単純に人見知りなだけだと思うんだけど……。


「奏は俺とか蒼衣、村瀬には色々な顔見せてくれるけど、総司や他のクラスメイトの前だと、あまり表情変えないじゃん?そういうところがクールなんだってさ」


 そう、なんだ……。


「もっとグイグイ行った方が良いのかな……?」


「奏は奏、無理に変わる必要はないよ。ていうか、俺が嫌」


 ぎゅっと抱き寄せられて、さっきとは違う緊張感が襲う。


「奏のそういうあざといとこ……たとえ総司であっても、俺妬いちゃうから」


 てるは時折こうやって格好良い事言うの、ずるい。

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