第54話 奏視点 好きな理由1

 てるがご飯を食べ終えた後、私の肩に頭が乗った時。

 頭の中が急に真っ白になった代わりに、きゅーっと胸が締め付けられて、顔が熱くドキドキさせられて、どうしたら良いのか分からなかった。

 横目でてるを見ると、気持ち良さそうにぐっすりと眠っていた。子供っぽい寝顔なのに格好いい。


「て、てるが……ね、ねね……うぅ~~っ……」


 しばらく悶えていると、誰かが歩いてる音がした。

 足音的に一人……?段々と近付いてくる。


「ふふーん……あっ」


「……一葉会長」


 てるを見て、一瞬悲しそうな顔をしてたけど、すぐにいつもの会長に戻った。


「ねえ奏ちゃん……ちょっと良いかな?」


 一体私に何を相談しようとしてるのだろう?こういう時どうしたら良いのかの相談をしたいぐらいなのに……。


「……東條君と付き合ってるって、本当?」


「う、ん……っ」


 また顔が熱くなった。


「……そっか、仲良いもんね」


「会長……?」


 何でそんな悲しい顔をするの?


「……私ね、東條君のこと好きだったんだ。一人の男の子として」


「……ッ」


 胸がざわついた。一葉会長が……てるのこと、好き……?


「告白したら断られちゃった……奏ちゃんが好きだからって理由で」


 今度は胸が締め付けられる。好きって言われると胸が締め付けれちゃう。


「ふふっ……顔真っ赤、本当に好きなんだね。東條君のことが」


「……小学生の頃から、ずっと好き、だもん」


「じゃあ最初から叶わない恋だったんだ……悔しいけど仕方ないか」


 ごめんなさい会長……。


「……彼を好きになった理由聞いても良い?」


「いいよ、友達だから……」


「良いの?私なんかが友達になっちゃっても……」


 私は小さく頷く。

 千花は親友だけど、会長は友達。


「ありがと、じゃあ改めて聞かせてよ。奏ちゃんの初恋」


「ちょっと長くなる、かも……?」


「それでも聞かせてよ?私は振られたとは言え、やっぱり同じ人を好きになったんだからちょっと気になって」


 私が逆の立場なら、同じこと言ってたかもしれない。


「今から十年程前――」






 ☆






 当時の私は、今以上にてるの傍にずっと居て、よくクラスメイトにからかわれた。

 でもクラスメイトもそこまで悪い気はしなくて、友達みたいな感覚で言ってきたんだと思う。

 そんなある日、蒼衣ちゃんが風邪を引いてしまい、てるも風邪で休むことになったらしく、その事を朝の会の先生から聞かされた。


「ごめんね、奏ちゃん。代わりにおうちに届けてくれないかな?」


 片方は蒼衣ちゃんの、もう片方はてるの。

 幼馴染で家が近いから、先生から頼まれた。

 でも私は友達なんて居ないから、帰り道はずっと一人でちょっとだけ怖くて、てるの家に向かって車に気を付けながら走った。


「てる……っ」


 家に着いた私は、インターフォンを押して息を整えた。


『はーい、どなた?』


「か……なで、です……」


 寂しい気持ちと怖い気持ちが入り交じって、声が震えていた。


『ちょっと待ってて、今開けるわね』


 数分後、おばさんが玄関を開けて家に招き入れてくれた。


「わざわざごめんなさいね?いつもと違う一日で寂しかったでしょ?」


 おばさんは小さく頷いた私を見て、頭を撫でてくれた。


「あら、てる?」


「もう大丈夫、ごめんねかなちゃん一緒に行けなくて」


 てるに会えた。たったそれだけなのに、何故かこの時は気持ちが物凄く暖かく感じた。顔もこの時は赤かったらしい。

 半日で、すっかり元気になったてる。


「おわ……っ!もうかなちゃんてば……」


「うぅ……!会いたかったよぉ……っ!」


「わわっ!急に泣かないでよ!ほらよしよし」


 今も昔も全く変わらないこの優しいところが好きだった。

 寂しかったら頭を撫でて笑ってくれて、当時怖かった犬の前だと体を張って守ってくれた。

 そういう優しいところが大好き。

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