第52話

 始業式が終わり、再び教室に戻って軽くホームルームをやって今日の授業は終わった。

 明日からまた通常授業に戻るらしい。


「終わった~、輝飯行こうぜ」


「良いけどよ、村瀬をあんま怒らせんなよ?」


「……そうだよ?」


 俺と奏は総司にジト目で睨み付けると、露骨に嫌そうな顔をして、しかもタイミングが悪く村瀬に見られてしまう。

 今まで見たことがないような笑った顔、奏を除く全員が視線を集め、ゾッとしたのだ。

 何故か奏は俺を見て、ムッとした表情を見せていた。


「そーうーくーん?朝言ったこともう忘れたのかなぁ?」


「あ、いや!そ、そう!こ、こいつらと一緒に飯でもってさ!だからぁ……そのぉ……」


 滅茶苦茶目を泳がせながら、必死に説得を試みる総司。


「何?あの二人は関係ないよね?あの二人はちゃーんと恋人らしいことしてるんだよ?私達付き合って一回もされたことないから羨ましいって思ってるんだけど?」


 あ、これヤバイ奴だ。

 俺はその場を離れるために、奏の手を取って教室から出る。

 ちょうど出た後、総司の悲鳴が聴こえ、許せと思いながら三年の教室を離れた。





 ☆






 もうどれぐらい走ったのだろう?息が上がってしまって、肩で息をしている。

 奏も同じように息が上がっていて、でも顔は赤いままだった。


「ごめん、な……はぁ……っ」


 顔を横に振って、隣にピタリとくっつく。


「ううん、いいよ」


 お互い呼吸を整えた後、辺りを見渡すと体育館裏に来ていたようで、誰も居ない。

 学校での二人きり、体育館裏というのもあってか、二人の間の空気が心地よくて、その場に座り込む。


「あいつら、大丈夫かな……結構やばそうな感じしたけど」


「むう……っ」


 頬を膨らませて、ジト目で睨み付けられるが、怖いというよりは可愛いが勝ってしまい、微笑み返す。


「そういや、髪型変えた?」


「!てる、気付くの遅い……似合う?」


 今まではロングのままで、たまに髪飾りを着けてくれたぐらいだったのが、今はひとつに纏めてポニーテール。


「よく似合ってる、奏らしいよ」


「……子供っぽい?」


「なんていうか、ちょっと大人な雰囲気がある」


 大人っぽいと言われたのが嬉しいのか、頬を緩ませて嬉しそうに微笑んだ。

 俺にはその姿があの時の夢とそっくりに見えて、少し見惚れて顔を逸らした。


「てる?」


「な、なんでもない……」


「照れてる?」


「……照れてない」


 俺の肩に奏の頭が乗せられて、胸の鼓動が速まった。

 可愛くて綺麗な彼女に、俺はドキドキさせられっぱなしで、本当にずるい。


「そろそろ、戻ろ?」


 奏は満足したのか、立ち上がって手を伸ばしていた。

 でも俺はもう少しだけ、二人きりで居たかった。


「てる?」


「……うん、戻ろう」


 でも、困らせたくなくて素直になった。

 二人きりなんて今の俺達なら何時でもなれるから、と。

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