第三章 二学期

第51話

 まだ暑さが残る八月の最終週、普段より早く起き学校の制服に袖を通す。

 通学鞄を持ってリビングへ向かうと、両親が既に居て蒼衣はまだ起きてはいなかった。


「おはよう……あーそうね。今日から学校再開よね」


「おはよう母さん、父さん」


「今日は早いからお弁当要らないよね?」


「まあ最悪何処かで食べるよ」


 とまあ色々と話しながら朝ご飯を食べて、玄関へ向かうと見たことのあるシルエットが見えた。

 靴を履いて玄関の扉を開けると、幼馴染みでもあり彼女の奏が待っていた。


「おはよ、てる」


「おはよう」


「いこっ?」


 彼女はあまり表情を出さないが、俺の前だけは色々な表情を見せてくれる。

 村瀬から聞いた話だと、クーデレだとか言っていたような気がする。


「……てる?」


「あー悪い、今日も奏が可愛いから、ついついボーッとしてたわ」


「……っ」


 耳まで真っ赤になった奏は、恥ずかしいのか顔を俯かせた。


「じゃあ行こうか」


「……ん」


 制服の袖を小さな手でぎゅっと掴み、学校へ向かった。





 ☆






 学校に着いた俺達二人は、知らぬ間に全校生徒から視線を集めていたようで、奏の顔はずっと真っ赤のままだった。

 中には俺が奏と付き合ってるとは知らない人も居るのか、驚いたようなそんな視線を向けられる。


「むう……っ」


 まだ顔は赤いままだが、それでも奏は俺と渡さないと言わんばかりにくっつく。


「……って、痛い痛い!奏!力入れんな!お、折れる!」


「……」


 まだつーんとしており、頬が膨れたまま昇降口へやってきた。

 少し眠そうな村瀬が、ちょうど上履きに履き替えたところだった。


「……ん、あぁ。おはよ二人とも……ふあ~あ」


「おはよう、あれ総司は?」


「何時も一緒に居るみたいに言わないで、朝は別なの……」


 でも心なしか寂しそうな表情を浮かべる。

 それに普段の性格より随分とかけ離れていて、何かあったのだろうかと余計な詮索をする。


「ああ、喧嘩はしてないよ……私が早く来すぎただけだから」


「だったら良いけど……なんでそんな寂しそうなのかなって」


「だって夏休みデート、アレだけだったんだもん」


 村瀬は奏みたいに頬を膨らませ、視線を総司の靴箱に向ける。

 この反応を見ると、よっぽど行きたかったようだ。


「あーなんかムカついてきた!私ここで総くん待ってるから先行ってて」


「お、おう……程々にな?」


 俺と奏は上履きに履き替え、二人で仲良く教室へ。

 ちなみに後から来た総司は、ボロボロの状態で教室には行ってきて、俺を含めた男子勢は、村瀬を下手に怒らせてはいけないという謎のルールが出来上がった。

 所々痣が出来ていて、総司、お前は一体何をやったんだと、俺は思った。

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