第50話 奏視点 彼の存在

 てると一緒にテレビを見てたら、急に怖い話が始まって、その怖さに怯えているとてるに意地悪された。

 後ろに誰か居ると言われた時は本気で怖くて、おばさんだったことに安堵したせいで、大泣きしてしまった。


 今は少し落ち着いて、気付けば時間は二十一時過ぎ。

 あれからどうしても一人が怖くなり、てるの傍から離れられなくなった。



「そういえば奏ちゃん……帰らなくて大丈夫なの?」


 流石に何の連絡も入れてないのは不味いと思い、その場で家に電話を掛ける。


『奏!今何処なの?!』


「……てるの家、連絡入れなくてごめんなさい……」


 電話越しに怒られた私は酷く落ち込んだ。

 でも、てるだけは違った。


「あ、もしもし?おばさん?なんか色々とすいません……はい、はい……分かりました、伝えておきます。それではおやすみなさい」


「お母さん……なんて?」


「今日はもう遅いから泊まってけってさ」


 お母さん……ごめんなさい、明日はお母さんの好きな料理作るね。

 よく小さい頃からお泊まりはしていたけど、この歳になってそういうことをするなんて思っても見なかった。

 私の大切なもうひとつの家族、みんな優しくて大好き。





 ☆





 お風呂に入った後、私は怖い話のせいで一人で居ることが恐ろしくて、常にビクビクしていた。

 入れ替わりでてるがお風呂に入った時なんかも、ずっとそわそわして、もっと早く帰ってきて欲しかった。

 そして時間は過ぎ、就寝時間。


「……っ」


 今日は蒼衣ちゃんが居ないらしくて、その部屋を借りて寝ようとするも、やっぱり怖くて寝れない。

 あの恐怖映像が脳内で再生される。


「ッ!て、てるぅ……」


 怖すぎて頭から思いっきり布団を被る。

 微かな音でも今の私は駄目だ、よく見てた時はそんなに怖くなかったのに……。

 居ても立っても居られなくて、蒼衣ちゃんの枕をぎゅーーーーっと抱き締めながら、てるの部屋に忍び込む。


「……っ」


 こっそりベッドに入り、ぐっすりと寝ているてるにぴたりとくっつく。

 くっついた私は、さっきまで震えていた体が嘘みたいに治まった。

 異変に気付いたのかてるは目覚めてしまう。


「あれ……奏、なんでここに……好きなだけ居ていいぞ」


 震えは止まっていたけど、離れたくない一心で掴んでいた手を見て察したのだろう。

 好きなだけ居ていい、この言葉が何故か違う意味で聞こえて顔が熱くなるのが分かった。


「うん……っ」


 不安だった心の隙間にてるが入ってきてくれたから、さっきまで怖くて仕方なかった怖い話を忘れることが出来た。

 心がポカポカして、幸せだった。


「おやすみ、てる」


 そのまま私も眠りにつく、てるがおやすみと言ってくれたようなそんな声が微かに聞こえた。


「すぅ……すぅ……」


 いつか私達も結婚して、子供が出来て幸せな家庭を築く。

 そんな夢を見て、この夏休みが終わった。

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