第49話
ご飯を食べ終えた俺は、奏に変わって台所で洗い物を受け持つ。
彼女と言えど、ご飯まで作って貰って、流石に洗い物までさせるわけにはいかなかった。
奏はソファーに座ってクッションを抱き締め、面白い番組を見つけたのか、楽しそうにテレビを見ていた。
「奏は相変わらずだな……よし、これで終わりかな」
最後にもう一度手を洗い、タオルで手をしっかり水滴を拭き取って、奏が座るソファーへ向かう。
「おつかれ」
「ありがと」
奏は緩みきった口をクッションで隠し、身体を預ける。
「体のほうは……大丈夫か?」
「歩くのがちょっと辛いだけ、それ以外はなんともない」
「そっか」
何度目かの沈黙、でもその沈黙は決して居心地の悪いものではなかった。
現に俺達は手を繋いでいるのだから。
「あのさ奏……さっき変な夢を見たんだ」
「……夢?」
「うん……俺と奏ともう一人小さい子供と一緒に居て、よく分かんないけど……俺達に似た子供と一緒に公園みたいなところに来てた」
奏は何も言わず、普段の表情で聞いてくれた。
俺の変な夢を聞いて奏は、一体何を思ったのだろうか?いつもの表情に戻ってしまったから、流石の俺も読めない。
「……てる」
「ん、なんだ?」
「それ、現実になると良いね」
奏は柔らかい笑顔を俺に向けた。
「仮に現実になったとしてもさ……何時になるんだろうな」
「蒼衣ちゃんが、今の私たちと同じぐらいになる頃?」
「大分先じゃん」
でも、それまでずっと一緒に居てくれると言ってくれたような感じがして、心が暖かかった。
それまでに色々なことがもっと起こるだろう。でも実際に何が起こるかは、神のみぞ知る。
そういった意味では、この夢は俺の変な妄想だろう。
「あ、番組変わったな」
「そうみた……っ?!」
奏はテレビの画面に写し出されたのに怯え、勢いよく俺に抱き着いた。
この時期によく放送される怖い話という奴だ。
奏はおばけとかそういう類のものは、最初は面白がって見ていたけど、とある映画をきっかけにかなり怖がるようになった。
俺はそのきっかけが何なのかは未だに知らない。
「やあだ……か、変えて……っ」
「変えるにしても……他に面白そうなのやってないよ?」
「い、いじわるぅ……!ひああああ!!」
ギューッと力強く抱き締める奏の姿は、これはこれで可愛くて、ついついいじめたくなる。
俺は何も言わずに居ると、不安そうな表情を浮かべながら上目遣いする。
「て、てる……?」
俺は何も言わず、視線を合わせる。
「は、早く……か、変えてってば……」
「奏、後ろ」
「っ!!な、何……?怖いよぉ……」
「人をおばけ扱いする息子なんて、お母さんはそんな子に育てた覚えはないわよ?」
ちっ……後少しだったのに。
「う、うわあああああああああ!ごわがっだよぉ……!!」
奏は心のダムが決壊したのか、大泣きしてしまった。
「あらら、よしよし……輝」
「わーってる……悪いやりすぎた」
「ぐすっ……てる、バカぁ……っ!」
それでも、抱き着く先は母さんじゃなくて俺なんだよなと内心思いながら、泣き止むまでただひたすらに謝り続けた。
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