第47話

 風呂から上がった俺は、部屋着に着替えてリビングで麦茶を入れて、自分の部屋に向かう。

 俺の部屋で何やら声が聞こえ、そっと扉の前に聞き耳を立てる。


「んはぁ……この匂い、好き」


 一体何をしてるんだろうか?ベッドにでも潜り込んでるのか?


「んっ……はぁ……っ、て、る……っ!」


 えっ……な、何やってるんだ?!


「?!」


「あっ……」


 気付いたら部屋の扉を開けてしまっていて、奏の顔はみるみる内に真っ赤になり、布団を頭から被り、悶えていた。


「見られた……見られた……見られた……」


「あ、あのぉ……奏さん……?」


「!み、見ないで……っ」


「と、とりあえず落ち着けって……お茶飲むか?」


 俺は机の上にコップを置き、奏はそのコップを取ってはぐびぐびと飲み干す。

 まだ顔は赤いものの、少し落ち着いたようだ。


「「……」」


 何とも言えない空気が、俺達を包み込み、時間だけが過ぎていく。

 静かになってから数分後、奏は隣をぽんぽんと叩き、どうやら隣に来て欲しいようだ。

 俺はそのまま隣に移動し座ると、身体を預けてきた。


「て、てる……勉強、どう……?」


「い、一応なんとかやってる……」


「そ、そか……」


 また静かになり、今度は少し暑く感じた。


「れ、冷房付けるか……?」


 奏は小さく頷いたを見て、冷房を入れる。


「……ねえてる」


「なんだ……?」


 奏は俺の手を取り、奏の胸に触れる。


「なっ……?!何して――!」


「……どう?千花程大きくないけど……」


「バ、バカかお前は……!」


 口ではそういうが、奏の胸は意外と柔らかく、まだ手に感触が残っていた。


「てる……」


「うわっ……」


 俺は突然、奏に押し倒される。


「キスだけで終わるの……?」


「か、奏……?」


 奏は何か焦っているようにも見え、俺の左頬にそっと触れる。


「そんなに、魅力……ない?」


「そ、そんなわけ……!」


 ないと言いたかった、言い切りたかった。

 でも言えなかった。


「そんなに……子供っぽいの?」


 だって、奏は泣いていたから。

 俺の胸元にぽつぽつと、奏が流した涙の雫が零れ落ちる。


「奏……なんで泣いて……」


「てるのバカッ!バカバカ……!なんでその先をしてくれないの……っ!」


 先……?奏の言う先って……?


「私の事……嫌いになった?」


「そんなわけないだろっ……!」


「!」


「もしそうなら、今こうして一緒には居ないだろ?」


 奏の事なんて、一度も嫌いになんてなったことはない。

 むしろ奏がいる毎日が楽しくて、奏が隣に居てくれたから野球だって頑張れたんだ。


「だから、もう泣くな……お前が、奏が心から笑ってる顔が一番好きだからさ」


 奏の涙を拭い、優しく微笑む。

 本音が聞けて嬉しいのか、俺の大好きな奏の笑顔を見せてくれた。


「……えへへ」


「奏……んっ」


 もう何度目か分からないけど、キスをする。

 俺達は夢中になってキスをしていたら、気付けば体勢が逆になっていた。


「てる、いいよ……?」


「で、でも……」


「てるになら……何されても良い、よ?」


 頭の中でぷつんと何かが切れ、それから先の事は何も覚えてない。

 ただひとつ言えることは、凄く幸せな時間だったということだけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る