第44話

 旅館の美味しい料理を食べた後、俺は暫く部屋でボーッと外の景色を見ていると、部屋の扉が開き、お風呂から上がり浴衣に着替えた奏と蒼衣が戻ってきた。

 二人とも頬が赤く、奏に至っては少し眠そうだった。


「おかえり、二人とも」


「うん、ただいまー」


「奏はなんだか眠そうだな」


 勢い良く顔を横に振り、眠くないと否定する奏、だけど説得力がなく、再び眠そうな顔に戻る。

 ふらふらとした足取りで、俺のところまで歩いてくる奏。


「おっと……大丈夫か?寝ても良いんだぞ?」


「……やっ」


 子供のように甘えるその姿は、今の俺にとっては危険度の高い可愛さだ。

 流石に蒼衣も居る以上、キスしたい気持ちを抑え、存分に甘やかすことに徹する。


「かな姉、ホント可愛い」


「ま、まあ……そう、だな」


「あれれ?お兄ちゃん顔赤いよー?」


「うっさいほっとけ」


 奏がここまで甘えてくるのは久々で、すぅすぅと可愛らしい寝息と共に、好き好きオーラが溢れていた。

 そろそろ俺も風呂に入りたいのだが、奏が寝てしまって、離してくれない。


「……ねえお兄ちゃん」


「ん?なんだ?」


「なんでかな姉のこと、好きになったの……?」


 なんで、か……。

 なんでだろうな、いつも通り一緒に居るせいで気にもしてなかった。


「……一緒に居て安心するから?」


「それじゃ答えになってない」


「んなこと言われても……自分でもわかんねえんだよ……どうして奏の事好きになったのか、好きなのか」


 俺はあいつらと違って、自ら想いをぶつけることはできなかった。

 蒼衣と違い、ずっと胸の内で秘めてたわけでもない。


「え?告白したのって、お兄ちゃんからじゃないの?」


「……奏だよ、俺はいいよって返事しただけ」


「そうなんだ……」


 だから自分の本当の気持ちなんて伝えてない、奏から昔からずっと好きと言われて、好きだって返しただけだ。

 だからなのかもしれない、時々俺は奏の隣に、傍に居て良いのかと。


「お兄ちゃんはさ……かな姉のどういうとこが好き?」


「俺に一途で、俺にだけこうして甘えてきたり、いろんな顔を見せてくれることかな……?」


 今答えられることを答えてみた。


「それがお兄ちゃんにとっての好きな理由なんじゃないのかな?」


「そうなのか?」


「前にかな姉に同じこと言われたから、多分そうだと思う」


 これが俺が抱いていた本当の気持ち……。


「……私も貴之のこと好きだって、気付いたのそれだから」


「凄いよな、奏って……」


「うん、本当にそう思う」


 子供のように甘えたり、子供扱いされると不貞腐れたり、こうしたいろんな顔を見せてくれるようになったのは、付き合ってからだ。

 それまでは全くといって良いほど分からなかった。

 分かるようになったのは、付き合い出して数日後ぐらい。


「そろそろ風呂行きたいから、蒼衣代わってくれるか?」


「それ、かな姉起きちゃわない?」


「え、奏が起きるまで入れないの俺……?」


「そうしてあげたいけど……なんかあからさまに更に力入れてるし……」


 そういえば、気付けば抱き締められてるような……。


「……おい、起きてるだろ?」


 その時、ピクリと体が動いた。


「はぁ……流石に風呂入りたいから、戻ってきてからで良い?」


「……分かった」


 やっぱり起きてんじゃねえかこいつ……!

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