第45話

 一人で更衣室で、着替えとタオルを置いて服を脱ぎ、大浴場がある風呂場に向かうと、俺の父さんが居た。

 大浴場に入って、気持ち良さそうな顔を浮かべては、俺と目が合った。


「……一人か?」


「当たり前だろ」


 俺はシャワーの場所で身体と頭を洗い、ゆっくりと大浴場に入る。


「最近はどうだ?学校」


「なんとかやってるよ、もうそろそろ受験だし」


「そうだな、あまり根を詰めるなよ?お前はすぐ無理をする悪い癖があるから」


「分かってるよ」


 俺はそのまま壁に凭れ、夜空を見上げる。


「奏ちゃんと仲良くやってるか?」


「うん」


「そうか」


 父さんはそれ以降何も言わず、一緒に夜空を見上げていた。そういえば、将来の事聞いてこないんだなと、ふと頭に過る。


「自分の気持ちに素直になれ、俺から言えることはそれだけだ」


 それだけを言い残し、父さんは風呂から上がり、その場を去る。

 素直、か……。


「……とっくになってるつーの」


 数十分後に俺も風呂から上がり、浴衣に着替えて、途中売店でお菓子を買って部屋に戻った。





 ☆






 部屋に戻った俺、蒼衣は既に布団の中で、ぐっすりと可愛らしい寝息を立てていた。

 奏はというと、俺が風呂に入るまで座っていた席に座っては、同じように景色を眺めていた。

 奏は気付いたのか、こちらに振り向いた。


「あっ……てる」


「ただいま、お菓子買ったけど食うか?」


「ん」


 俺は反対側に座り、小さな机の上にビニール袋を置き、適当に買ったお菓子を取り出す。

 奏はポッキーを取り出し、美味しそうに頬張る。


「……食べる?」


「ありがと」


 小袋から一本貰い、それを咥えたままにして、さっきと同じように空を見上げる。

 こうやって遊んでられるのも、残り数ヵ月で学校が始まれば文化祭と体育祭があり、それが終わると後は受験勉強だ。

 意外とあっという間だったなと、想いに更けていると奏が反対側を食べ出していた。


「!?」


 見つめ合う俺達二人、頬を赤く染めては、ゆっくりとゆっくりと距離が近付く。

 距離が近付くにつれ、奏の目がとろんと溶け、気付けばお互いの鼻が触れ合う距離まで迫ってきた。


「……あむっ、うぅ……」


「かな、で……」


 一口、また一口と食べ出し、最終的にそのまま唇と触れ合った。

 甘いチョコレートの味がした。くらくらする。


「……ふふっ」


「……いきなりどうしたんだ?」


「んーんっ」


 奏は胸に顔を埋めて、ぎゅっと抱き付いた。


「したかったこと、出来た」


「さっきのが?」


「うん、千花達から聞いて羨ましいなって……」


 耳まで真っ赤になった奏は、恥ずかしそうに微笑むと俺は何も言えなかった。

 ちょっとでも良いから、こういう恋人っぽいことしていきたいななんて想う俺であった。


 翌朝、ちょうどその時を蒼衣に見られていたようで、奏は蒼衣に激怒してた。俺が目覚めたのはその怒鳴り声だった。

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