第43話 奏視点 兄妹2

 キスに夢中になってある程度時間が経ち、頭の中がふわふわしていて、それでいててるの事が好きで好きでたまらない。

 顔を埋め抱き締めながら、少し落ち着かせる。


「わりいな……あんまり構ってやれなくて……」


 てるは申し訳なさそうな顔をして、優しく抱き締められる私。

 埋めたまま擦り付けるように、横に振る。


「……てるは蒼衣ちゃんのお兄ちゃん」


「奏……」


「てるのそういう優しいとこ、結構好き」


 だからなのか分からない。

 胸がはち切れそうなぐらい苦しくて、でもそれ以上に好きという気持ちが我慢出来なくて、腕に更に力を込めた。


「大好き……っ」


「っ!お、俺……も」


 何かを言い掛けたてるのスマホが震えた。


「……も、もしもし?あぁ……分かった」


「……誰から?」


「母さんから、そろそろ戻ってこいって」


 時間的にもうすぐ夕食だったから、呼び戻される。

 少し寂しい気もするけど、時間が決まってる以上、長居はできない。


「さっさとクレープ食って帰ろう」


「ん……」


 私達はそのままクレープを分け合いながら、旅館へと戻っていく。

 その道中にはっきりとは聞こえなかったけど、てるが何か言ったような気がした。





 ☆






 旅館に戻り、部屋に付くと外の景色を眺めながら、何やら楽しそうに電話をしてる蒼衣ちゃんが居た。

 時折頬を赤く染めながら、笑ったり怒ったりして表情をコロコロと変え、感情表現が苦手な私はちょっとだけ羨ましく思った。


「――ん、またね。っ……!バカ」


 貴之君に何か言われて真っ赤になった蒼衣ちゃんは、少し嬉しそうな表情をしていた。

 今日はかなり歩いたからか、急に睡魔に襲われる。


「ふあ~っ……んっ」


「おい奏、今寝たら夕食食えねえぞ?」


「かな姉寝るのはまだ早いよ」


「てりゅ……」


 寝惚けた顔で名前を呼んで、そのまま凭れる。


「おい寝るなって……」


「ちめた……っ!」


 かなり冷たいものを頬にピタッとくっ付けられ、驚いたせいで睡魔が吹き飛ぶ。


「む~うっ!」


 犯人の蒼衣ちゃんを睨み付ける。


「ご、ごめんね?でもこうでもしないとかな姉寝ちゃうから……」


「蒼衣だって、悪気があってやった訳じゃないからな?」


「……むうっ」


 てるのバカ、もう知らないっ!


「だから機嫌治してくれよ……?」


「……」


「か、な……姉……ごめん、なさい……」


 気付いたら蒼衣ちゃんの目から涙が流れていた。

 あまりにも急すぎるせいで、てるもおろおろしながら蒼衣ちゃんを慰めていて、蒼衣ちゃんは泣き出した。

 お姉ちゃんに嫌われたなんて言われ、かつてのようにわんわんと泣く姿を見て、心が傷んだ。


「よしよし……蒼衣は悪くないから、な?」


「ひぐっ……ほんとーに……?ぐすっ……あお悪くない……?」


「ああ悪くないって、な?奏」


「う、うん……ごめんなさい」


 あんな姿を見せられたら、謝るしかなかった。


「え、えへへ……お姉ちゃんだいーすきっ!」


「ふぅ……もう、奏も気を付けてくれよ?」


「……うん」


 あんなに大泣きされたのは初めてで、蒼衣ちゃんを泣かせるのはダメだと、かなり懲りた私であった。

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