第42話 奏視点 兄妹1

 てると蒼衣ちゃんと一緒に温泉街に観光、お土産を見るために三人で外へ出た。

 半分はデート感覚な私は、朝からなぜか妹である蒼衣ちゃんに少しヤキモチを妬いている。

 頭ではそんなことないって分かってるはずなのに、どうしても独り占め出来ないことが、今の私にはどうも嫌らしい。


「蒼衣ー、これなんかどうだ?」


「いやいや似合わないでしょ!それならこっちでしょ」


「あー……そっちの方が良いかもな」


 今は二人でお土産を見ていて、私は少し離れたところでてるの顔をジーッと見ては、小さく溜め息を吐く。

 てるももう少し構ってくれても良いんじゃないかな?なんて思いながら、むすーっとしてる。


「……むう」


 ちょっとだけ寂しい……。


「可愛い……これ」


 目の前にあるのは、ここのマスコットキャラクターのぬいぐるみ。

 家にはそこまでぬいぐるみはないけど、こういう小物って言うのかな?欲しいと思っても口には出さなかった。

 ただジーッと見つめて、少しでも可愛いと思ったら手に取って、余程の事がない限りは抱き抱えない。


「欲しいのかそれ」


「えっ……?」


 後ろからてるが声を掛けられ、ちょっとだけビックリしちゃった。

 今回は可愛いと思っただけで欲しいなんて思ってない。

 小さく頭を横に振る。


「……可愛いと思っただけ」


 ぬいぐるみの傍から離れて、てるの袖を掴む。


「かな姉、この子結構好きそうな見た目してるんだけどなぁ……何か合わないことあった?」


「蒼衣ちゃんが買うかなって……」


 これは嘘、蒼衣ちゃんはぬいぐるみなんか買わない。

 だって私が誕生日に贈ったぬいぐるみ、今は飾ってないもん。


「……てる」


「どうした?」


「……なんでも、ない」


 なんだかんだ言って、私はてるの傍に居れるだけで十分だった。





 ☆






 町を散策してから数十分が経過していて、そろそろお腹が空いてきた。

 町もお土産店から食べ物屋に移り変わっていた。


「蒼衣ー、何か欲しいものあるか?」


「んー……じゃああれ欲しいな」


 蒼衣ちゃんが指を指したのは、クレープ店の抹茶味のクレープだった。


「奏は?何が欲しい?」


「ん……これ」


 私は苺味のクレープを頼んで、てるの顔を覗く。


「俺はいいよ。そろそろ夕食の時間だし」


「そんなに食べられない……だから半分あげる」


 まだ買ってすらいないのに、はんぶんこの約束を取り付けると優しい顔のてるが、頭を優しく撫でた。

 少し気持ち良くて目を細める。


「俺の事は良いから、気にすんな。本当に食べきれない時にでも貰うよ」


「ん……」


 抹茶味と苺味のクレープを買って、来た道を戻りながら、苺味のクレープを頬張る。

 凄い美味しい。チラッとてるの顔を見ると、蒼衣ちゃんの口元が少し汚れていたのか、口元に付いたクリームを指で拭き取り、蒼衣ちゃんはそのままぱくりと。


「えへへ、ありがとお兄ちゃん」


「蒼衣、女の子なんだからもっとお上品にだな……」


「流石に分かってるよー……!あむっ」


 また一口と口に含み幸せしそうな蒼衣ちゃんと、少しだけ心配をするてるの対称的な表情を見て、ちょっとだけ兄妹のことを羨ましく思った。


「……奏、こっち」


 蒼衣ちゃんはまっすぐ来た道を帰ってることを良いことに、てるは私と二人っきりになることを選び、手を引っ張られた。

 そこは街並みから外れた小さな路地で、奥に行けば行くほど見えないぐらい暗いところ。

 私はちょっとだけ怖くなり、顔を俯かせるとてるに無理矢理顔を上げられて、唇を貪られる。


「ぷはぁ……っ、て、る……?」


 キスによる熱によっておかしくなった私。


「んふっ……んっ……」


 手に持ってるクレープなんて忘れて、キスに夢中な私だった。

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