第39話

 水着に着替えてから再度集合という形で、お互い更衣室に移動。

 その際偶然二人きりになったので、事の経緯を改めて聞いてみた。


「なあ総司、本当に村瀬が言い出したんだよな?」


「おう、俺がこんな暑い中外出たいなんて言うと思うか?」


「だよな……にしてもなんで今日なんだろうな」


「千花が考えてる事って全くわかんねえんだよな……」


 じゃあなんで付き合ってんだよお前らは。


「おーい、何ボケーっと突っ立てんだ?行くぞ?」


「おう」


 男の着替えは早いので、一足先にプールに向かい、男二人でストレッチをしていると、見知らぬ人達に声を掛けられた。


「お兄さん達、今暇?」


「私らとあそぼーよ」


 逆ナンか、相手にするだけ無駄だって、高校で思い知ってる俺は無視を決め込む。

 だけど、総司はそういう経験がない。


「俺ら彼女居るんで」


「えーそうなのー?いっがーい、でもこっちのお兄さんは格好いいからなんか分かるかも?」


「ねー、私惚れちゃったかも?なんて――」


 一人が俺の腕に触れようとした時だった。

 俺は後ろに体を持っていかれて後ろを向くと、超絶不機嫌な奏と村瀬が俺達を抱き寄せていた。


「ちぇっ……次いこ」


 逆ナンをしてきた二人は興醒めしたのか、俺達の傍から離れていった。


「もうっ!総くんはなんで余計なこと言うのかな?」


「事実を言ったまでだ」


「東條みたいに黙ってたら良いの!」


 と、口うるさく釘を打つ村瀬。


「むう……てるは私の」


「まあでも助かったよ」


「んっ……えへへ」


 機嫌を直して貰うために優しく頭を撫でると、いつもみたいに表情が砕ける奏。可愛い。

 その光景を見ていた村瀬は、総司もしろと言わんばかりの目で訴える。


「はぁ……これで良いか?」


「それただ置いただけじゃん!」


「えー……めんどくさ――」


 何かが総司の顔を横切った。


「何か言った?」


「い、いえっ!」


「まあいいよ、でも今回だけだからね?」


 二人の仲睦まじい姿を眺めていると、奏に肩をつんつんとされ、奏はくるっと一回転をして可愛らしくポーズを決めてた。


「……どう?変、じゃない?」


「似合ってる、奏らしいよ」


「えへへ」


 奏は他の女子より少し背が小さいとは言え、水着は似合っていて、胸も意外とあってやっぱり女の子なんだなと意識した。

 村瀬の水着姿は、白色のビキニタイプで奏とは違い、豊満な胸が他の男達の視線を釘付けするレベルだった。

 俺はある程度分かっていたことなので、すぐ奏に視線を戻す。


「でも意外と人多いな」


「てるは泳ぐの?」


「んー……今は良いかな。奏が泳ぎたいなら別だけど」


「じゃあ泳がない」


 奏はそう言うと、俺の傍からしばらく離れない。

 落ち着くまではボーッとしながら、眺めるのも悪くないだろう。


「……てる」


「んー、どうした」


「……ううん、なんでも」


 奏から手を握られ、俺は優しく握り返すと体をピタッとくっつかせた。

 表情は何処か暗いまま、何か思い詰めているのか分からないが、俺から離れようとしない。


「ナンパされて俺がどっか行っちゃうって考えたのか?」


「……違う」


「おじさんに何か言われたのか?」


 奏は俯いて、小さく頷いた。


「何言われたの?」


「てると付き合ってるって言ったら、怒られた」


 は?どうしてだ?あんなに親父達と仲が良かったのに……。


「今は受験生なんだから受験に集中しろって……」


「あぁそういう……そんなこと言われたのか」


「本格的にするの遅くても十月頃なのに、ちょっと喧嘩しちゃった」


 おじさんもおじさんなりに考えて言ったんだろうな。

 ただその理論で行くとイチャイチャ出来るのは、受験が終わってからになるのか……なんか嫌だ。

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