第38話

 その後も野球部は二回戦、三回戦と勝ち進み、気付けば準決勝まで駒を進めていた。

 ただここまで来ると、流石に相手も手強くなり、準決勝敗退という形で我が野球部の夏は終わった。


 月日は流れ、八月。

 最近は尋常じゃない程暑く、勉強に身が入らない。


「あっつ~……」


 こんな炎天下の中で外出なんてしたくない俺は、どう暇を潰そうか考えていた。


「お兄ちゃーん、かな姉が来たんだけどー」


「奏が?」


 何の連絡もなしに来るなんて珍しいと思いつつ、玄関に向かうと、本当に奏が来ていて、視線が合うと俺にしか分からない程度で微笑んだ。


「……プールいこ?」


「なんでプール?こんなあっつい日に外出たくないんだけどっ?!」


 俺は隣に居る蒼衣に横腹に拳が入り、その場に崩れる。


「蒼衣……お前な……」


「ふんっ!このヘタレ!」


「この間まで返事を待たせてたお前が言うな……」


 再度殴られ、蒼衣は部屋へと戻っていった。


「大丈夫……?」


「くっそいてえ……あいつどんだけ本気で、いててっ」


 完全に入ったせいで立てなくなった俺を、心底心配する奏に多少の罪悪感を感じながら、本当にプールに行くかどうか聞いてみた。


「最初からそのつもりだけど……?」


「……奏って水着持ってきてるのか?」


「うん、新しいの」


 あ、スク水じゃないのね。


「いっでぇ!」


「……今、失礼なこと考えてた」


 不機嫌になった奏の顔は、今までよりも怖かった。


「カ、カンガエテマセンヨ……」


「むう……こっち見て」


 無理矢理顔を正面に向けられる俺だが、目を合わせないように逸らす。

 というよりは、服の隙間から見える肌が今の俺には刺激的すぎたからだ。


「てるっ」


「その……色々と見えてるんですよ」


「何が?」


「……胸とか、その素肌が……」


 もう終わったと覚悟して目を瞑るが、何も起こらなくて、恐る恐る目を開けると、特に気にしてない様子で俺を見る。


「……怒らねえのか?」


「怒る?なんで?」


「いやだって……」


「ねえ、プールいこ?」


 可愛らしく顔を傾げる奏に、結局折れるのは俺だった。





 ☆





 俺の隣を歩く奏の姿は、まるで少女のようで愛らしくて、奏も少しだけ機嫌が良い。

 ただ違うとすれば、手を繋ぐんじゃなくて腕に絡み付いていること。


「プールっプールっ」


 まるで子供のようにはしゃぐ奏は、何とも言えない可愛らしさがあった。


「もう遅いよー奏ー」


「……時間ぴったり」


 プールの入り口まで待っていたのは、村瀬と総司だった。


「輝、お前も連れてこられたのか?」


「まあな……総司もか?」


「俺もそんな感じ」


 彼女等に聞こえないように、男二人で話し合ってると、村瀬がムスッとした顔でこちらに近付く。

 視線の先は俺じゃなく、総司。


「何よ!他の人に私の水着姿見せても良いの?!」


「そりゃ嫌だけど……なんでよりによって今日なのって」


「行きたかったからに決まってるじゃん」


 不覚にも不貞腐れた村瀬が可愛いと思ってしまい、今度は奏が不機嫌に。


「……浮気者」


「なんで?!」


「……むう、私もあれぐらいあれば」


 これ以上言うと、更に機嫌を損ねかねないので、素直に謝ることに。


「まあ……悪かった、でも一番は奏だから」


「一番……」


 頬を赤く染めて、少しだけ口角が上がってるのを見て、やっぱり可愛いなぁと思う俺であった。

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