第37話 奏視点 相談事2

 蒼衣ちゃんは、私に相談したいことがあると言って、お昼を食べた後部屋に招き入れ、話を聞くと幼馴染の貴之くんに告白されたらしい。

 本人は嬉しいんだけど、どうすれば良いのか分からないということみたい。


「ねえ……私どうしたら良いのかな……」


「……自分の気持ちに素直になるしか」


「素直に……?無理無理!」


 蒼衣ちゃんは勢いよく顔を横に振って、顔を俯かせた。


「かな姉みたいに可愛くないし、大雑把だし、女の子らしいこと一つも出来ないし……それに」


「それに?」


「アイツ……なんだかんだでモテるの」


 ただ自覚する時期が違うだけの私とてるのようだった。


「頭も良いし、運動も出来るし、おまけに料理まで出来ちゃうんだもん……そりゃモテるよね、私と違って」


「……じゃあ他の子に盗られてもいいの?」


「えっ?」


「ずっとその調子だと、他の子に盗られちゃうよ?」


 同じ幼馴染を好きになった私として、てるの妹である蒼衣ちゃんにも私と同じようになって欲しい。

 私だっててるが私以外の女子と一緒に、なんて考えたくない。

 だって―――好きだから。


「私……てるが他の子と一緒に話してるとこ、ずっと遠くで見てきた」


 高一まではそこまで意識したことがなかった。

 高二に入ると、後輩が出来たてるを遠くで眺めていて、私が隣に居る時よりずっと雰囲気が良かった。

 あと告白されたと聞いた時は、それが悔しくて一度は諦めようと考えたことがある。


「私ね……てるが遠くに行っちゃいそうで怖かった」


 その時は告白しようと思ったけど、恥ずかしくてなかなか言えなくて、ちょっとした喧嘩をして、その後輩と一緒に居るところを見てしまった。

 私はこの時に初めて、てるが他の誰かと付き合うのは嫌と考えるようになった。


「でも……勇気を出して告白した、他の誰よりもてるが好きだから」


「かな姉……」


「だから、素直になっちゃお?」


 私の話を聞いて、蒼衣ちゃんはなんて思っただろう?なんて感じ取ったのかな?強い?格好いい?

 それともって考えたかな?もしそうなら、その考えは立派だと思うよ。


「……だもん」


 なにか小声で呟いたような気がした。


「私だって!アイツが……の事好きだもん!他の子にちやほやされてるとこなんて見たくない!」


「伝える相手、違うよ?」


「だね……かな姉ありがとう、少しだけ素直になってみる」


「……ファイト」


 いつも私と一緒にてるの後ろに付いて、遊んでたあの蒼衣ちゃんが遠くに行ってしまったように感じて、少し心細く寂しかった。

 蒼衣ちゃんも、私と同じようになって幸せになって欲しいな。


「あーかな姉、もうひとつ質問いい?」


「?」


「……キスってどんな感じなの?」


 キ、キス……うぅ……急に顔が熱くなってきた。


「……ふわふわ、する」


「そ、そうなんだ……私と貴之……っ~~~!」


 耳まで真っ赤になった蒼衣ちゃんは、魚のように口をパクパクさせて、頭から湯気みたいなのが出てきた。

 そういう私も似たようなもので、顔が真っ赤になり、ぬいぐるみに再度顔を埋めた。


「キ、キスって……き、気持ちいい……?」


「……うん」


「へ、へぇ……そ、そう……なんだ」


 一体何の話してるんだろ……。


「じ、じゃあ……私帰るね!またねかな姉」


「……う、うん」


 そう言って部屋を飛び出ていった。

 私は無意識にてるのスマホに通話を掛けた。


『もしもし?珍しいな、急にどうした?』


「……好き」


『えっ……まあ俺も好きだぞ?』


 え、えへへ……思わず口元が緩む。


 そして数日後、蒼衣ちゃんと貴之くんは付き合うことになった。

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