第35話
奏は十分に満足したのか、機嫌が良い。
普段滅多に感情を表に出さない奏が、ここまで感情を表にを出すのは、出会ってから初めての事。
一緒に居る時間が長くなり、ましてや付き合ってるとなると、その表情を独り占めしたくなる。
「満足した?」
「うんっ、次いこ?」
俺は会計を済ませるために二人で店の出入り口に向かう。
金額はそこそこしたが、それでも十分と言えるもので大変満足した。
「ありがとうございました、またのお越しを」
俺達は手を繋いで、適当な場所を見て回り、休憩コーナーなる場所にあるベンチで少し休憩していた。
奏は疲れたのかウトウトと頭が波を打ち、最後には俺の太股にバタンと倒れ込み、そのまま眠りについた。
「……奏、おやすみ」
頭を優しく撫で、俺達と似たようなカップルが居て、凄いイチャイチャしていた。
俺はそれがなんとなく羨ましいと思った。
俺の彼女である奏は感情をあまり表には出さないだけで、皆と同じように笑ったり怒ったりはする。
それが元で結構苦労したっけな……。
「うぅ……んんっ……すぅ……すぅ」
見た目は中学生か小学生っぽいのに、出るとこはしっかりと出て、まだ俺と同じ十七歳だけど、しっかりとしてる。
そういえば、どうして俺は奏の事を好きになったんだろうとふと考えた。
幼馴染だから?一緒に居るから?一緒に居たいから?
「わっかんねー……」
俺は逆の立場になって再度考える。
「ますますわかんねえ……」
けど……好きになるのに理由なんて要らない。
俺は植村奏という一人の女性を好きになったんだから。
「て、る……」
突然奏に名前を呼ばれ、顔を下に向けるが、まだぐっすりと眠っていて寝言だと気付いた。
「おいて、いかない、で……一人に、しないで……」
何の夢を見てるのだろうか、夢の中の俺が突然離れていったのだろうか?
奏の夢の中の俺に対して、なんてバカな奴なんだと思いながら、優しく頭を撫で手を握った。
「……もう何処にもいかないよ、もうあの時のようにはしないから」
すると奏は落ち着いた表情に戻り、握った手を奏の胸元に移動した。
奏の胸の鼓動は、少しだけ早く感じた。
☆
奏が眠りについてからしばらくして、奏が目覚めた。
まだ寝惚けてるのかボーッとしており、俺の肩に頭を乗せて再び眠りについた。
可愛らしい寝息、寝顔を前に俺の頬が赤く染まる。
「あー……ったくもう」
今度は俺の鼓動が早まり、なんだか少し熱い。
「て、る……しゅき……だよ……」
今度は奏の顔を直視出来なくなり、胸が苦しく、さっきより鼓動が早い。
「俺だって……好きだっつーの……」
激しい胸の鼓動を抑えつつ、更に熱くなった顔を手で覆いながら、俺はそう呟いた。
惚れたら負けとはよく言ったものだ。
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