第34話

 試合が終わり、俺達は球場の外に出ていた。

 今日、我が校に負けてしまった野球部が、一塁側入場口前で最後のミーティング。

 監督を始め、俺達と同じ三年生は悔し涙を流していた。


「相手も強かったけど、それ以上にうちが強かった。分かってたことだけど、なんかこう……ね」


 村瀬の夏は初日で終わってしまい、少なからずその負けた悔しさを一番理解出来るのだろう。

 負けたら終わりの一発勝負、うちはたまたま勝っただけ。


「だな……今なら俺も分かるかも」


「……さて!総くんとこ行こ!」


 暗い雰囲気をぶち壊してくれる村瀬に感謝しつつ、俺達三人は総司達野球部が居る、三塁側入場口前に向かう。


「奏……?どうした?行くぞ?」


「……二人だけの時間」


「いやでも……」


 奏は俺に抱き付いた、幸い周りには誰も居ない。


「……てる」


「うっ……わ、分かった!分かったから!!その泣きそうな顔やめろ」


 奏はにぱーっと微笑み、俺は苦笑いするしかなかった。





 ☆





 俺と奏は球場を後にして、駅前近くのショッピングセンターに足を運び、店内に入ると手を握ってきた。

 少し恥ずかしいのか頬を赤く染め、俯いている。


「あー……行きたいとことか、あるか?」


「んっ……」


 奏が指を指したのは、場所はよくある普通の喫茶店だった。

 俺はこの時、奏はデートがしたかったんだと気付く。


「いいよ、行こう」


「あっ……」


 俺は子供の頃のように、引っ張るような形で喫茶店に向かい、一緒に向かった。

 その時の奏の表情は凄く可愛かった。





 ☆





 入店した俺と奏は、店員さんが反応し、応対してくれた。


「いらっしゃいませー、お席ご案内しますね」


 入ってすぐのところの小さな席に案内された俺達二人は、メニュー表を渡される。

 メニューを開くと、美味しそうな洋食とデザートがずらっと並んでおり、どれも目を引くようなものばかりだ。

 奏はとあるページを開くと、じーっと見つめていた。


「決まったか?」


「こ、これにする……」


 奏はカップル限定と書かれたパンケーキや、パフェのページを指差し、ほんのりと赤く染まった奏の頬に俺は嫌な予感しかしなかった。


『カップル限定を頼まれるお客様は、店員の前でその証明としてキスをしていただきます』


 と、小さく注釈されていた。


「いい……?」


 ほんのりと赤く染まった頬、上目遣い、潤んだ目を前にした俺は、もう折れるしかなかった。

 店員さんを呼んで奏が震えた声でそれを頼み、他の客が居る中で俺達はキスをし、お互い耳まで真っ赤になり、料理が運ばれてくるまでお互い一言も発しなかった。






 ☆






 その料理が運ばれて、俺達二人はデザート並に甘い時間を過ごし、気付けばギャラリーが出来ていた。

 だけど、そんなことお構いなしに俺達だけの時間を過ごす。


「てーるっ、あーん」


「あーん、美味しいほら奏も」


「はむっ……ふへへ」


 よく見ると奏の口元には生クリームが付いており、俺はクリームを取るために顔を近付け、唇に軽く振れた。


「クリーム、付いてた」


「っ~~~~~~~~~!」


 ボフッと聞こえるぐらい顔が真っ赤に染まった奏は小さく俯き、ありがとと呟いた。

 もう周りの事等すっかり忘れ、自分達の世界に入っていた俺と奏だった。

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