第33話

 先攻は相手の学校、その為此方は守備からのスタート。


「総くーん!ファイト~!」


 こんなにイキイキとした村瀬は初めてだ、まあ去年までは俺はあのグラウンドに居たからだけど。

 主審にコールで試合開始、生まれ変わった総司の力見せてくれよ。


「ストライク!」


 主審の声が大きく響き渡り、立ち上がりは良さそうだ。

 そのままテンポよくカウントを取り、三者三振に打ち取る。


「上々の出来だな」


 スコアブックに書きながら小さく呟く。

 後攻の我が校の攻撃、こちらも三者三振に打ち取られ、初回は無得点に終わる。


 そんなこんなで試合が動いたのは、三回表。

 一死取った後の八番に三遊間を抜ける左前安打。

 この試合初の安打が記録され、少しだけ総司が動揺したように見えた。


「さあ総司、どうする?ゲッツーで終わらせるか、打ち取って一番に回すか……」


 九番はバントの構えを見せたのを見て、ストライクゾーンから外し、カウントワンボール。

 俺はこの時、相手ベンチのサインとその後の一番の成績を見る。


「……まずいな」


「何がまずいの?」


「一番の子、得点圏打率が異常に高い」


 普通一番は最低限の得点圏打率と高い出塁率が良いはずだが、そのどちらも四割越え。

 それに総司は過去の成績から、得点圏被打率が三割二部台とよく打たれてる。

 俺ならここであえてバントさせて、総司の前に強い打球を転ばせて、ダブルプレーを取りに行く。


「総くん……」


 九番はバントの構えから一変して、ヒッティングに切り替えたのと同時に一塁ランナーが走った。


「バスターエンドラン……かなり仕掛けてくるな」


 一塁手はこれで動けない、三塁手も同様に下手に前へチャージ出来ない。

 牽制で一呼吸置いて、相手の出方を見たい。

 だが、総司はそのまま投げ、簡単に送りバントを決められてしまった。


「あぁ~ピンチだぁ~」


 一球目はアウトコース一杯のストライク、二球目はインコースを狙い過ぎてボール。

 カウントワンボールワンストライク、第三球目。


「あっ……!」


 アウトロー狙ったのが甘く中に入るも、相手のミスショットに助けられ三飛に打ち取り、一打先制のピンチを切り抜ける。


「ふぅ……まだ球に勢いがあって良かった」


「だね!」


 たまに安打は出るも打ち取られの展開が続き、俺の予想通りの投手戦になり、終盤戦に差し掛かろうとしていた。

 八回裏、今日最大のチャンスが到来。

 相手投手の四球を機に相手のエラーも相まって、無死二三塁、バッターはエースの総司。


「総くーん!」


「総司、決めろよ……!」


 相手の内野シフトが変わり、二遊間が大きく前に出て、前進バックホーム体制。

 一球目はタイミング外され空振り、続く二球目は辛うじて止めたバットに当たりファール。

 三球目は僅かに外へ逃げ、ボール。

 カウントワンボールツーストライク、第四球目。


 振り抜いたバットはボールを捉え、空高く舞い上がり、そのままフェンスを越え、スタンドイン。

 

 総司の左中間方向への本塁打、大きな三点を自らのバットで入れた。

 三塁側スタンドは大いに湧き、俺は思わず立ち上がって叫び、村瀬は頬を赤く染めながら、まるで自分のように喜んでいた。


 その後、試合はその三点が大きくのし掛かり、試合終了。

 ヒーローは間違いなく総司、改めてこいつは凄い奴だと、再認識させられた。

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