第二章 夏休み

第31話

 俺がやってみたいことを見つけてから数週間が経ち、学校も終わって夏休みに入った。

 相変わらず奏と一緒に居る俺、だけどここ最近何があったかは知らないがよく笑うようにはなった。


「じぃー……」


 ちなみに我が校の野球部初戦は明後日から、村瀬を入れて三人で応援するつもりだ。


「じぃー……」


「だぁ!もう!!なんだよさっきから……!」


「……?」


 可愛らしく顔を傾げるが、俺は奏の頭を両手でぐりぐりとすると痛いのかおもいっきり目を瞑っていた。


「あぁ……っ!ごめっ……!いたぁ……っ!」


 奏から手を離すと、さっきまでぐりぐりとされた所を撫でながら涙目になっていた。


「なんだよ奏?構って欲しいのか?」


 勢いよく顔を縦に振るが、まだ痛むのか涙目のまま。


「じゃあ何して欲しいんだ?」


「エッ―――」


「親も居るのにんなことするかバカ!」


 まだ家族も居るし、朝っぱらから何言ってるんだ……?!


「……むう、じゃあキス」


「……それで欲情してするんだろ?乗らねえからな?」


「むうっ!」


 リスのように頬を膨らませて、睨み付ける姿は本当に小動物のようで可愛かった。

 俺は微笑ましい表情を出したら、怒って部屋を出ていってしまった。


「……ちょっとからかいすぎたかな」


 俺は反省して次戻ってきた時には謝ろうと思ったが、何やら蒼衣の部屋で話し声が聞こえた。

 その後静かになったと思えば、俺の部屋に押し掛けてきた。


「……にゃあ」


 そこには猫耳とそれに合わせた衣装を着て、猫の真似をしていた。恐ろしい程可愛い。

 何故か蒼衣も同じ姿だった。こっちもこっちで可愛い。


「ジロジロ見んな!クソ兄貴!……うぅっ」


「にゃんっ……えへへ」


 対称的な表情を浮かべている二人、俺は二人の可愛らしさに勉強していた手が止まる。

 気付けばスマホで何枚か撮って、総司や村瀬、蒼衣の幼馴染にも送っていた。


「ちょっ!何やって……?!」


「アイツにも送ってやったぞ、返信が楽しみっ?!」


 蒼衣の鉄拳が飛んできて倒れる俺と、悶える蒼衣。


「お、お、お兄ちゃんのバカああああああああああ!!」


 蒼衣はそのまま部屋を出ていった。





 ☆





「いやー輝さん良いものありがとね」


「その代わり代償がな……」


 あの後、蒼衣は俺と一切口を利いてくれなくなり、部屋に閉じ籠ってしまった。

 蒼衣の幼馴染、野瀬貴之のせたかきが遊びに来ていた。

 俺に憧れて野球を始めていて、一応蒼衣の好きな人でもある。


「あーそうだ輝さん、明後日の初戦俺もあおちゃんと一緒に見に行きますよ!なんせ総司先輩の最期の大会だし」


「珍しいな二人で見に来るなんて」


「……まあ色々あるんすよこっちも」


 なにか覚悟を決めたような顔をして、小さい頃はあんなおどおどしていた貴之が、いつの間にか随分と男らしくなっていた。

 そりゃ蒼衣も惚れるわけだ。


「……一世一代の大告白、ファイト」


 ていうか奏さん、あなたまだその衣装なの?着替えないの?可愛すぎて色々とまずいんだけど?


「てーるっ、えへへ」


「輝さん!?鼻血!鼻血!」


 あまりの可愛さに悶え、俺は再び倒れ込むのだった。

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