第30話 奏視点 友情

 千花の最期の大会が終わって数日後、お互いの彼氏は忙しそうだったから、久し振りに二人で帰ることになった。

 久し振りに二人になった私達は、小物売場や呉服屋等を見て回っていた。


「はー!久々だけど楽しいね!」


「……本当に買うの?」


 今私が持ってるのは、千花のセンスで選んでくれた新しい服で、すごく可愛らしいんだけど、急に恥ずかしくなった。


「いい奏?もっと意識させなきゃダーメ!私だって色々苦労してるんだよ?」


「に、似合う……?」


「絶対に似合うって!ほら!」


 再度鏡に合わせられたこの服と私の姿、この姿をてるに見せるの……?なんか恥ずかしい……。


「ううっ……恥ずかしい……」


 多分今の私は耳まで真っ赤だろう、だって変に意識させられてるから。

 すると後ろから店員さんまでやってきた。


「あらお客様、凄くお似合いですよ?」


「すいませーん!私のセンスじゃこれが限界なので店員さんのおすすめコーデ教えてください!」


「えっ……千花……っ」


「畏まりました、少々御待ちください」


 い、行っちゃった……っ。


「奏前からずっと言ってるけど、自分に自信持ちなって」


「……で、でも」


「奏はさ、将来東條とどういう関係になりたいの?」


 将来てると……ずっと一緒に居たいとだけしか。


「……分かんない」


「そっか……私はね、このまま総くんと幸せになって奏達とずっと友達関係で居たいの」


「とも……だち……」


「本当だったらもう別れてもおかしくないのに、奏が友達だったからここまで付き合えてるし、なんなら総くんに告白する勇気を与えてくれたのも奏だから」


 幸せそうな笑顔で私に素直な気持ちをぶつけてくれた。


「私は奏の一番の友達で居たいの、もう少しだけ勇気出して良いんだよ?私知ってるんだ奏が東條に告白したの」


「見てたの……?」


「ごめんね、でもどうしても二人の事が気になって」


 普通なら怒っても良いんだろうけど、何故か怒る気になれなかった。


「……ねえ奏、今でも東條のこと好き?」


 私は頬を赤く染めながら小さく頷く、胸が強く締め付けられる程てるが好き。


「私もね、奏がそう思ってるぐらい総君の事が好き」


 私の小さな手が千花の大きな胸に触れると、私と同じぐらい鼓動が早かった。


「でも今はこうやって奏と一緒に居るのが好き、同じクラスで友達で野球バカな人を好きになったもの同士」


「千花……」


「だから自信持って、その可愛い服着てWデートして楽しもうよ!」


 千花は勉強は出来ないけど、運動が出来て周りに気配り出来る優しい人。

 引っ込み思案な私とは正反対の性格なのに、いつも笑ってる千花がここまで言ってくれた。


「……分かった」


 ちょうど店員さんが服を持って戻ってきた。

 でもそのコーデは千花の背伸びしたような感じとは少し違って、私の雰囲気に合わせてくれたのか凄く可愛かった。


「御待たせしました、こちらはいかがでしょうか?お客様のも十分お似合いかと思いますが……」


「……これにします」


 私が選んだのは店員さんが選んでくれたもの、私はそれに着替え、鏡の前の自分を見る。

 まるで別人のように見え、少しだけ勇気が出た。

 思い切って千花と店員さんに姿を見せた。


「おおー!奏すっごい可愛いよ!」


「お客様、凄くお似合いですよ」


 普段笑わない私が初めて笑えた瞬間でもあった。


 千花、ずっと友達で居ようね。

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