第29話
奏の風邪が治って数日が経ち、村瀬の女バスの予選が始まり二人で応援に来ていた。
ただ女バスというのもあってか、隣に奏が居ると言うのにも関わらず、いつも以上に女子に見られる。
奏はそれが嫌で仕方ないのか、威嚇しながら腕に抱き着く。
「……むうっ!」
「まあ取り合えず落ち着けって……」
「てるは渡さない……」
誰も取りゃしねえよ……。
「……さっきからめっちゃ見られる」
それもそのはず、この場に居る男子は監督コーチを除けば、俺ただ一人なのだから。
その為か、うちと初戦戦うことになってるとこも同様に、俺を見ては、ヒソヒソと話題になってるようだった。
早く総司来てくれ……!居心地悪すぎんだろ……!
☆
結局あのまま総司は現れず、試合が終了。
五十七対七十九で我が校の敗北、村瀬のあんな悔しそうな表情を見た俺と奏は心が痛かった。
終了後、一旦学校に戻り、体育館で我が校の女バスの引退式が始まり、村瀬が初めてここで泣いた。
来年は絶対に優勝すると、後輩たちは自信満々に言って、引退式は終わった。
「……奏……東條、私……私っ!」
「……千花はよくやった」
「奏……!やっぱり悔しいよ……!」
俺は初戦で負けてしまうという悔しさはよく分かるし、俺だって同じことをしてきたから……。
「……三年間、本当にお疲れ様」
「ありがと東條……ぐすっ、総くん結局来なかったけど……二人のお陰でなんとか頑張れたよ……」
「次は受験、だな」
「……私、もっと勉強頑張る!それで総くんを驚かして絶対に同じ学校行くんだ!」
自信満々にそう告げる村瀬の宣言を俺達は応援すると言って、そのまま解散。
☆
帰り道、幼い頃よく遊んだ公園に来て、奏と二人でボーッとしていた。
危なそうな大半の遊具は撤去されていて、残ってるのは滑り台と砂場のみ。
それでも幼稚園児達は楽しそうに元気に遊んでいた。
「……なんか懐かしいな」
「……もうこれだけ」
昔遊んでた大半の遊具は無くなっていて、少し寂しかった。
「奏覚えてる?ここで蒼衣と三人でよく一緒に遊んでたの」
「……うん」
その当時は俺は三人でこの公園で遊んでいた。
砂場で城を作ったり、泥団子作ったりと。
「……もうすぐこの公園無くなっちゃうらしい」
「えっ?そうなの?」
「うん、お父さん達が言ってた」
そっか……無くなっちゃうんだ、この公園。
「夏祭りもなくなっちゃうらしいけど、やっぱ寂しいな」
「うん……」
もっと楽しく遊べるような公園があれば良いんだけど……誰か作ってくれないかな……。
ん……?公園?夏祭り?
「てる?」
「やりたいこと見つかったかも……」
「えっ?」
「時間は掛かるかもしれないけど……やらないよりは良い」
それに隣に居る奏との思い出も、その先の思い出も。
「……私は応援する」
「……ありがとな奏」
俺達二人はここで微笑み合い、改めて奏という俺にとっては大切な存在だと思い知らされた。
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