第28話

 お粥を食べ終えた奏は風邪薬をしっかり服用して、再び横になる。

 お粥を食べるまでは辛そうだった顔も、薬をしっかりと服用したことによって、少しだけ和らいでいた。

 奏が物凄く頭を撫でて欲しそうにしていたから、頭を撫でる。


「えへへ……けほっ……けほっ」


「いつまでもしてやっから、早く寝ろって……悪化したら元も子もないだろ?」


「むう……」


 また子供みたいに拗ねて……。


「だから大人しく寝てろ、いいな?」


「……ん」


 少しだけ不貞腐れたまま大人しくなり、布団を被せ、奏が眠るまでの間、撫で続けた。





 ☆





 そして夕方、今朝の辛そうな表情に比べたら、だいぶ落ち着いた表情になり、少しだけホッとする。

 すると植村家のインターフォンが鳴り響き、奏はまだぐっすりと眠ってる為、代わりに俺が応対することに。


「はーい、どちら様で……」


「お、東條じゃん?」


「なんだお前か、お見舞いか?」


「そんな感じー」


 部活帰りの村瀬を家に招き入れ、俺達二人は奏の部屋へとやってきた。


「最近そっちはどうだ?」


「んー……ぼちぼちかな?最近総くんとまともに会話してないけどさ、最近遅くなっても一人で居残りしてるんだよね」


 総司の奴……。


「その姿がかっこよくてさ、もし東條が居たらと思うとちょっと今の総くんは怖くて仕方ない」


「……そうか」


「と言っても無理してる訳じゃなくて、今日までの確認みたいな感じ?」


 その感じだとフォームを確かめてるのか、やりすぎはあまりよくないんだけどな。


「初戦、見に行くでしょ?」


「まあ一応は……仮にも元部員だし」


「?どったの?歯切れの悪い答え方して」


 俺が進路のことで一杯になってからというもの、あの日以来、総司と全く話してない。

 顔を合わせることはあっても、それぞれの彼女の元に居るせいで、次第に会話の数が減っていた。


「……男には色々あんだよ」


「なんかよく分かんないけど……喧嘩だけは止めてよ?奏が悲しんじゃうよ?」


「わーってるよ、そこまで馬鹿じゃねえ」


「んんーっ……!……すぅ……すぅ」


 余りにも煩かったのか、奏がうるさいと言わんばかりに寝返りを打った。


「……奏が風邪ひいたって聞いた時は、ちょっと寂しかったな」


「俺も少しだけ心配したな、毎年こうだから」


 幼馴染として奏の傍にずっと居るようになってから、いろんな事があった。

 たまには喧嘩したりもしたけど、やっぱり一番はこの風邪で弱ってしまう事が個人的に嫌だった。


「総君の事ばっかりだけど私の今度の土曜の地区予選、応援待ってるね?」


「そっちも行くよ、もうこれを機に俺みたく完全に辞めるんだっけ?」


「うん、総くんと一緒になりたいから……」


 そう話す村瀬の頬は赤く染まり、改めて総司の事が本気で好きなんだなと思った。

 俺も村瀬みたいになれるのかな?奏を本気で愛することが……。


「東條ならもっと凄い人になれるよ、奏の友達であるこの私が保証する!」


「ありがと、ただ……」


「ん?あっ……」


「……むうっ」


 いつの間にか奏が起きていて、超絶不機嫌な顔で俺達を睨み付けていた。

 ただ今日は風邪を拗らせていたこともあり、咳き込んでしまう。


「奏が考えてるようなことは一切してないよ」


 背中をさすりながら奏に告げると、奏は村瀬に視線を送る。


「東條の言う通り」


「……次は許さない」


「なんで?!」


 いつも通りの二人で安心する俺だった。

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