第25話

 顔は赤く不機嫌、頬を膨らせたまま、そっぽ向き何も言わず、ぴったりと体を寄せる。

 まるで誰にもあげないと言わんばかりに。


「さっき無理矢理したこと怒ってるの?」


 顔を横に振る、どうやら違うらしい。


「いいんちょと良い感じだったから?」


「うっ……違うもんっ」


 いや怒ってる理由、確実にそれだろ……。


「……そんなに不安?」


「てるの役に立てなかったから……」


「そんなこと―――」


「あるのっ!いっつもしてもらってばかりなのに……」


 奏……。


「恩返し、したいの……」


「恩返し?」


「……ずっと一緒に居たい、から」


 奏に抱き着かれる俺、目から涙が流れていた。


「最近怖い……てるがどっか行っちゃうんじゃないかって」


 物凄く不安そうな声色で、涙で真っ赤になった目で訴えてくる。


「だから……どこにも行かないで……私を一人にしないで」


「約束する、どこにも行かないって」


「うんっ……うんっ!」


 俺達は熱い抱擁をした後、軽く触れ合うだけのキスをして教室に戻った。





 ☆





 そして放課後、俺は担任に呼び出され、職員室に来ていた。


「どう?進路のこと、あなただけよ?決まってないの」


「色々と見ては居るんですけど、とりあえずは進学かなーと考えてます」


「大学?それとも院生?」


「まだその辺は……」


 そもそも俺の今の学力でいけるとこなんてあるのかな?


「そう、大体分かったわ……今回の期末の結果を踏まえてあなたが今いけそうな大学の資料、参考程度に渡すね」


「ありがとうございます……!」


 やっぱ持つべきものは担任だな。


「野球部辞めるなんて言い出した時は大変だったね」


「何回その話するんすか……もう良いでしょ」


「私も期待してたんだけどなぁ……東條君の野球やってる姿結構かっこ良かったわよ?」


 うちの担任はキャリアウーマンで、物凄く美人に見えてまだ独身らしく、何回か合コンにいっては良い男から逃げられてるとか。


「……東條君?今あなた失礼なこと考えなかった?」


「な、何言ってんすか……そ、そんなわけ……」


「そういや東條君、最近植村さんとお付き合いしたらしいじゃないの?私に対する宣戦布告かしら?」


 なんでよりによってこの人の耳にそんな情報が入ってんだよ!!


「……どーせ私はガサツですよーっだ」


 つーんとした後に先生は拗ね出した。


「あ、あはは……まあ奏は幼馴染ですから」


「幼馴染ねぇ……よく付き合うわね、恋愛対象にならないってよく聞くのに」


「普通はそうっすね、先生はいらっしゃらないんですか?その……そういう幼馴染とか」


「居るには居るけど……お互い忙しいからしばらく会ってないわ」


 やっぱり社会人になってしまうと、先生でも疎遠になってしまうんだな……。

 先生の顔も少し暗いし、好きだったのかな?その人が。


「大学の途中までは一緒だったんだけど、急に時間合わなくなってからそれっきり、元気にしてると良いけど」


「大変ですね、資料有り難く使わせていただきます」


「何かあったら教えてね~」


 俺は職員室を出て、奏が待つ教室へ向かう。

 少しだけ寂しくなった俺は普段より早く歩いて戻っていた。


「奏ー、悪い遅くなっ……珍しく寝てる」


 奏の寝顔は可愛くて、子供みたいだ。

 俺は優しく頭を撫でながら、隣の席に座って寝顔を眺めるのだった。

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