第22話 奏視点 仮デート
最近の私は何かあれば、すぐてるの傍に居ることが多くなった。
一緒に居ると安心するからだろうか?隣に居るだけでもやもやする気持ちも吹っ飛ぶ。
近くの商店街に来た私達は、まず本屋さんに向かう。
真剣な表情で探すてるの横顔を見ると、吸い込まれるように顔が勝手に近づく。
それに気付いたてるは振り向きそうになり、慌てて離れる。
「どうした?」
「……なんでも、ない」
「?奏も何か良さそうなのあったら教えて」
小さく頷いた私は気付かれないように深呼吸をして、てるの進路に良さそうなものを探す。
数十分後、夢中になって探したせいで、いつの間にかてるとはぐれた。
怖い……一人は嫌……。
「うぅっ……てる……」
私は泣きそうになって、その場から動けなくなり、小さくてると呟くことしか出来なかった。
「どうしたそんな泣きそうな顔して」
「うぅっ……てる!」
「おわっ……どうした?」
「こわ……か、った」
ぎゅっとてるを抱き締める、本当に怖かったから。
「はいはい、よしよし」
「んっ……」
てるに撫でられるのが好きな私は、寂しい気持ちが少しだけ紛れた。
もっとして欲しくて、更に力を込める。
「……もっとってか、気が済むまでと言いたいけどここ店内な?」
「やっ……」
やだ。
「全く甘えん坊だなぁ……奏は」
えへへ、気持ちいい……。
「……俺も甘すぎるな」
「……お揃い?」
「そろそろ勘弁してくれ、真面目に探してるんだからさ」
口はそう言うけれど、顔はそこまで厳しくない。
でもそろそろ悪乗りもここまでにしないと、本来の目的はデートじゃなくて、てるのやりたいことを探すためだから。
「……何かあった?」
「ピンと来るものは何一つ無かったよ、本当俺って野球しか見てこなかったんだなって改めて思ったよ」
「……てるらしい」
普通ならもっと興味を持っても良いはずなのに、てるは野球一筋で生きてきたからか、他にやりたいことが見つからないのは私からすれば考えられない。
「次行く……?」
「もう少しだけ探す、無かったら次行こう」
「……ん」
今度ははぐれないようにしっかりと手を握って。
☆
結局何も見つからず、帰路についた私達。
でも色々と収穫はあったっぽく、さっきからずっと考えていて、ジーッと見つめても微笑み返されるだけだった。
家に着いて自室に戻り、制服から夏用の私服に着替え、ベッドの上にぬいぐるみを抱きながら座り込む。
「明日も探すのかな……?」
一緒に居られる時間が増えるのは良いけど、てるの為にも早く見つけてあげたい。
多分決まってないのはてるだけだと思うから。でもそれよりも……。
「……一緒の大学行きたいな」
好きとか付き合ってるからとかじゃなく、今まで通り普通に。
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