第20話

 帰り道、少し感情的になりすぎた俺は冷静になろうと奏に話し掛ける。

 昂る自分の気持ちを抑えて。


「奏……」


「……何?」


「……なんかごめん」


 俺の口から出たのは謝罪の言葉だった。


「……どうして謝るの?」


「また喧嘩しそうになったからさ……」


 また奏を怖がらせるところだった、それが俺としては嫌だった。


「……てる」


「どうした……っ?!」


 今、何された……?


「……むぎゅー」


 奏の耳が真っ赤に染まっていて、甘い空気が流れる。


「奏……今何を……」


「……えへへ」


「っ!」


 いつも見てる奏の笑顔なのに、胸が締め付けられる。

 まっすぐ顔を見れないはずなのに、心が暖かく感じてるのは何だろう?


「てる、大好き」


 また胸が締め付けられた。


「お、おう……」


 何とも言えない幸せな時間だった。





 ☆





 あれから数日が経ったある日のこと。

 俺は何故か奏の所属する料理研究部に招かれていた。


「おー彼があの東條君か、近くで見ると身長凄いね」


「それになんと言っても格好いい、こりゃ会長も惚れるわけよね」


「先輩!握手して貰っても良いですか?!」


 何故か女子に囲まれて、奏は物凄い不機嫌になり、俺を睨んでいた。

 俺が後輩と握手に応じようとした時。


「……てるは私の」


 その手を取って、腕に絡み付き後輩を睨み付けた。


「……てるも鼻の下伸ばさない」


「しょうがないだろ、こういうの初めてなんだし……」


「むうぅ~……!」


 あっヤバイ……!


「痛い!腕が!腕がもげる!!」


「……ふんっ」


 何とか離して貰った代わりに、奏は超絶ご機嫌斜めになってしまった。

 の割にはシャツを掴んでるのは何故だ?


「奏?この手は……」


「……他の女に靡かないように」


「そんなことするわけないでしょ……」


 奏はまだ信じられないようでその手を離さない。


「どうしたら許してくれるの?」


「……色目使わない?」


 そんなに心配ならなんで連れてきたんだよ……。


「使うわけないでしょ、奏さえ居れば俺は別に……」


「東條君、何気にさらっと惚気るのね……そう言って貰える奏ちゃんが羨ましいよ」


「そんなこと無いと思うけどなぁ……ってどうした奏?」


 今まで見たこと無いぐらい綺麗な笑顔、でもなんか嫌な予感しかしない。


「だから腕!折れるってば!」


 俺、何の為に連れてこられたんだ……?





 ☆





 その日の帰り道、料理研究部は色々なお菓子やらのレシピを見て、次のイベント?までにどうするかの意見交換会で、男の俺の意見が必要だったようで呼び出されたらしい。

 料理研究部の中には俺達ように付き合っているものが少なからず居るにも拘らずだ。


「奏は何作るの?」


「……内緒」


「えー、教えてくれても良いじゃん」


「……ダメなものはダメ」


 まあ当日になれば分かるかな、楽しみにしておこう。


「奏」


「……?」


「いや、呼んだだけ」


 こうやって制服着て一緒に帰るのも残り僅か、今年が終わるともう俺達は受験だ。

 だからこの何気ない放課後がいつか終わってしまう。


「早く帰ろう」


「……ん」


 これほど、こんな日が続けば良いと思ったことはない。

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