第19話
子供の頃から使っている河川敷にやってきた俺と総司と奏。
そこは俺達三人しか知らない想い出の地でもある。
「久々だな、一年振りか?」
「辞めたの丁度夏終わった後だったような気がする」
「もうそんな経つのか」
あいにく俺はグローブは持ってきてないので総司のを借り、軽くキャッチボールを始めた。
こうやって総司とキャッチボールをするのは、最初で最後なのかもしれない。
「そろそろ座って受けてくれ」
「うーっす」
適当な位置にグローブを構え、総司はそれ目掛けて投げてくるが、二つ分右にズレた。
いやズラしたと言った方が正しいかもしれない。
「相変わらずキレだけは良いんだよな」
「うっせ、どうだ?俺のスライダー」
「甘い、久々なのもあるけどスライダーの曲がりの幅が小さい、真っスラに近い感じで投げたのか?」
真っスラ、真っ直ぐに近い軌道で打者の手元でスライダーのように曲がる変化球。
あくまで俺個人の意見、もっと投げれば良くなるかもしれないからそれ以上は求めない。
「まあ今年投げ始めたばっかだから感覚掴めねえんだわ」
「通りで、どうしてこんな球を?」
「カットは投げてたけど、それだけじゃ抑えられないなって思ってさ」
総司は右左関係なくカットボールを使って抑えてきたが、流石に限界が来たのか球種を増やすことにしたようだ。
それにしては精度は低い、まだ他の球種を使っても良かったのに。
「……勝ちてえんだ、お前なしで」
「総司……」
「今まではお前の言う通りにしてきた、それでここまで来れた」
「じゃあ俺なんかとやるより後輩とやりゃ良いじゃねえか」
俺が辞めた後の秋季大会は散々な結果だったらしい。
数えきれない程のエラーに失点、とにかくムードが悪かったと。
「やっぱお前が居ないと……」
「俺はもう戻る気はないよ、この先奏と一緒に居たいから」
「何もそれだけのために野球を辞めなくても良かったじゃねえか……!」
去年も同じようなことを言われた、でもあの頃と違い、俺の夢はもう叶った。
こうして奏と付き合えた、だから戻ってこいと。
「お前が必要としてくれるのは正直嬉しい、でもそれだけじゃダメなんだよお前は」
「は……?」
「お前は俺を頼りすぎた、当然俺も頼りきってた」
その結果があの秋季大会で、皆俺を呼び戻そうと必死で喧嘩にまで発展した。
奏と付き合いたいで辞めたのもまた事実、でも本当に辞めたのはそれだけじゃない。
「あのまま俺が三年間マスク被っても、お前のためにならないと思ったからだ」
「俺は輝が居てくれたからここまで来れたんだ……!」
「だからそれじゃダメだっつってんだろ!お前は俺が居ないと何も出来ねえのか?!違うだろ?!」
「て、てる……!」
奏が間に入り、俺を落ち着かせようとする。
「……とにかくだ、俺なしで勝て」
「輝……」
「わりい帰る、奏」
俺はグローブを総司に返して、奏と一緒に河川敷を後にした。
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