第17話

 あれから数日が経ち、定期考査当日。

 初日は手応えがあって二日目の準備をしている時だった。


「輝、テストどうだった?」


「前から対策してたのもあって意外と行けた気がする」


「流石だな、まあ俺も似たようなもんだけど」


 総司と初日の感想を言い合っていた。


「そういや村瀬は?最近一緒じゃないよな?」


「あいつならほら」


 視線の先を追うと、机の上でぐったりとしてる村瀬の姿があり、今回もダメそうな雰囲気を出していた。

 奏はというとぐったりしてる村瀬をジーッと見つめて、生存確認をしてるようだった。


「この反応を見ると赤点かアイツ……?」


「……そうなんだよ」


 俺と総司は顔を見合わせて、小さく溜め息を吐いた。


「だから教えてやるって言ったのに……」


「あはは……まあまあそう言わずに」


「それに比べて奏ちゃんと来たらすげえ余裕だな」


「昔から頭良いからね」


 小学生の頃から頭が良く、かなり優等生だった。


「……っと、噂をすればだな」


「……?」


 丁度奏がこちらに来て、なんの事だか分からない為か頭を傾げて俺達に視線を送る。

 そんな奏が可愛くて今日一日の疲れが吹き飛びそうなぐらいだった。


「かーなーでー……勉強教えてー……」


「……加東君に聞く」


「やーだー!奏が良いー!!」


 俺は総司を睨み付けると、大きく顔を横に振っていた。


「はぁ……村瀬、総司の何がダメなんだ?」


「……格好いいから」


「は?」


「勉強してる姿がすっごい格好いいから気になって勉強できないの!」


 そんなにか……?村瀬の気持ちが全然わかんねえ……。


「奏といつも一緒の東條もそう思うでしょ?!」


「見慣れてるから全然?」


 可愛いと思っても、それで手につかなかったことは一回もねえな。


「ぐっ……これが幼馴染の余裕なのね……!」


「バカなこと言ってねえでみっちり仕込むから帰るぞ」


「ちょ!?待って!引っ張らないで!奏ー!!!!!」


「……バイバイ」


 教室を出るまで狂うように奏に助けを求めていた村瀬が、教室を出た途端に急に掌を返すようにデレデレし出した。

 一緒に帰れて嬉しいからなのか、何か吹き込まれたかは本人達に聞かなきゃ分からない。


「奏、俺達も帰ろっか」


「……ん」


 あの日と同じように手を握りながら帰路についた。





 ☆





 二日目以降の村瀬は必死に頑張った結果、赤点が初日の教科のみとなった。

 定期考査最終日、俺達は口から魂が抜け出してる村瀬の席に集まっていた。


「頑張った……私頑張ったよ……」


「……よしよし」


「最初から真面目に聞いとけばこんなことにならずに済んだのに……」


「何はともあれ、お疲れ様」


「ありがとー……二人ともー」


 俺は反対側にある窓の外を見る、綺麗な青空だ。


「輝、どうした?」


「いや、もうすぐだなって」


「……あぁそっか、もうすぐだな」


 総司にとって最期の大会が控えていて、元部員として応援に行くつもりはしている。


「明日からまた練習再開、今日はちょっと付き合ってくれよ」


「いいぞ、と言うわけで奏」


「……分かってる、そっちも頑張って」


「埋め合わせはまた今度するから、じゃあ」


 荷物を持ってその場から離れようとした時だった。

 奏の手が俺のシャツを掴んでいて、少しだけ寂しそうな顔をしていた。


「奏?」


「……やっぱり、やっ」


 今度は抱き着いてきた。

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