第16話
梅雨がそろそろ明けそうな頃、俺の通ってる高校はテストがある。
これが終わるといよいよ夏季大会が行われ、三年生として残すイベントが文化祭だけとなった。
「……ってことで、奏!また教えて!」
「……やっ」
「なんで?!」
「……加東君」
総司の名前を出しただけなのに、顔を真っ赤にして俯く村瀬の姿があった。
「……てると一緒にするからダメ」
「うぅ……な、なんで総くんと……というかなんであれで頭良いのよ……!」
「……千花、これはチャンス」
女子トークの中に混ざる勇気はないので、俺は一人で分かる範囲の勉強を進め出した。
一人で勉強をしていたら肩をつつかれた。
「今、一人?」
俺は手に持ってるシャーペンを例の二人の方に向ける。
「あぁ……そゆこと」
「だから大人しく勉強してるわけです、いいんちょ」
「その呼び方は止めてっていっつも言ってるのに、何で皆そう呼ぶのかなぁ……」
「真面目すぎるからじゃない?」
生徒会長にまでなってるぐらいだから会長って呼ばれるのが普通なんだけど、何故か俺達の間じゃいいんちょ呼びだもんな。
「そんなこと無いと思うけど……」
「むっ……一葉会長」
話が終わったのか戻ってきた奏が、いいんちょに威嚇しながら俺の傍までやってきた。
その姿が昔の蒼衣みたいで不覚にも可愛いと思った。
「いででっ?!なんで引っ張るの!」
「……妹じゃないもん」
「勝手に心読まないでくれる……?」
心の中まで見えるとかエスパーか何か?
「……てるのことなら、大体分かる」
「じゃあ今何考えてたか当ててよ」
俺は奏をじっと見つめると、耳まで真っ赤にしていいんちょが見てるのにも関わらず顔を埋めてきた。
「……バカ」
「仲、良いんだね」
「まあね、付き合ってるし」
「今、なんて……?」
「え?だから付き合ってるって……」
いいんちょの顔が一気に暗くなった。
声も弱々しくなり、何か信じられないと言わんばかりな表情をしていた。
「奏の事が大切だから……いいんちょは付き合えない」
「そっか……」
「そういうことだから、ごめん」
「……そっか」
危なっかしい足取りで教室を後にするいいんちょ、俺変なこと言っちゃったかな……。
奏はそんなことお構いなしに甘えてくる。
「奏、勉強出来ないんだけど?」
訴えてもまるで聞いてませんと言わんばかりに、幸せそうな表情を浮かべながら思いっきり甘えてくる。
「はぁ……しょうがねえな全く」
「……てーるっ」
「ん?」
最近はよく笑うようになった、でもそれは俺の前だけ。
「……何でもない」
皆の前では一切表情を変えないクールっぽさがありながら、俺の前ではこんなにもデレデレに変わる。
「満足したなら勉強」
「……ん」
だからこんな一面を知ってるのは俺だけで良いなんてついつい思ってしまう。
「……?何かついてる?」
「いや、可愛いなぁって」
「……?変なてる」
だからかな、こんな時間が長く続けば良いなんて思ってしまうのは。
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