第15話

 総司の謎の嫉妬により、注目の的になっている二人。

 二人がキスをするか否かで、クラスを巻き込む騒動に発展してしまう。


「千花ちゃん、ねえねえしないの?」


「そりゃしたいけど……!皆の前でするなんて……」


「千花って意外と乙女なんだな」


「あんたのせいでしょうがっ!?」


 俺は謎の頭痛を覚え、さっさと収まらないかなと思っていた。


「二人とも、んなことどうだっていいからさっさとキスでも何でもしろ」


「はぁ?!だから……で、出来るわけ……ないでしょ」


 急にしおらしくなった村瀬を見て、俺はため息を吐いた。


「総司お前の嫁だろ、なんとかしろ」


「そうは言ってもな……無理強いするのは良くねえだろ?」


「というかよ、嫁って何!?付き合ってるだけだよね?!」


 もうなんでも良いからさっさと終わってくれ……。

 なんかすっごい頭痛い……。


「てる……?」


「大丈夫、こいつらの面倒さにやられてるだけだから」


 少しだけ考える素振りを見せ、夏服を掴んでクイクイと引っ張る。


「……てる、耳貸して」


「良いけど……成る程な、サンキュ奏」


 小さいながらも、誇らしげに胸を張る奏の姿が可愛くて、頭痛が少し収まったような気がした。


「なあ総司、もう男らしくしちゃえ」


「男らしく……?」


「ちょ?!東條何言ってるの!?」


 考え込む総司とまた慌て出す村瀬。

 俺は総司のとある性格を熟知していたことを思い出し、誘導するように煽り出す。


「お前って思ったより女じゃねえか、そんなのでエースなんて務まるのか?やっぱ俺が居なきゃ何にも出来ねえのか?」


「なっ……!そんなことねえ!」


「だったらしてみろよ、出来たら何も言わねえ」


「……分かった、やったら前言撤回しろよ?」


「いいぜ、出来たらな」


 こいつは煽られると今のように感情的になることが多く、中学時代はその性格をコントロールさせるのに相当苦労した。

 今ではすっかり落ち着いてしまっているが、逆にその荒さを活かす時が来たのかもしれない。


「ちょっと!東條!なんてことしてくれるのよ?!」


「村瀬お前もだ、聞けば何度かチャンスがあったにも関わらずしなかったようだな?」


「何で知って……まさか?!」


「何年お前達を見てきたと思ってんだ、見てたら気付くよな皆?」


 俺と同じように三年間一緒だったクラスメイトが、同じように声を揃え出した。

 その光景を前に村瀬は総司を見る。


「ほ、本気なの?ちょっ近い!来ないで!」


 壁際まで追い込まれた村瀬、クラスの空気が一気に最高潮になる。


「やっちまえ総司!」


「千花ー!もうやっちゃいなよー!」


 総司が壁ドンをやり、今度は静かになった。


「……大成功」


「奏のお陰だよ」


 結果は勿論、クラスメイトが見守る中できっちりとやりきった。





 ☆





 放課後。


「じゃあ俺帰るわ、二人ともお幸せに」


「おう、輝お前も」


 あの後何が起きたか知らないが、何かが吹っ切れた総司を久々に見れた気がした。

 村瀬はまだボーッとしていて、独り言をぶつぶつと言っていて逆に怖かった。


「奏、村瀬どうなの?」


「……唇触ったりしてた」


「いやまあそれは見たら分かるけどさ……」


「……大丈夫、少ししたらいつもの調子に戻る」


 しばらく歩いてると奏はいつものように俺の横に並び、服を摘まむ。

 でも俺はその手を取って、手を重ねた。


「……おっきい手」


「嫌だったか?」


「……ううん、嫌じゃない」


 普段は滅多に笑わない隣の奏の笑顔が眩しくて、凄く幸せな気分になった。

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