第10話
カップケーキを貰って、自分の想いを伝えたことにより、俺と奏の関係が少しずつ変わっていった。
なんと言っても、俺が近付くと逃げ、かと思えば何処からか視線を感じるようにもなり、気が散って仕方がなかった。
そんな日が一週間程続いた。
梅雨が明け、三年の俺達は夏大会の予選が近付いた事で、空気がより一層ピリピリし出した。
教室に残っているのは、去年辞めた俺と委員長且つ生徒会長と数人の帰宅部だけだった。
「ねえ東條君、今って時間あるかな……?」
「何?会長……じゃなくていいんちょ」
「その呼び方は辞めてってば……もう、何で態々言い直すの?」
いいんちょと呼ばれて、少々不満げな表情を浮かべる美少女の名前は
背は平均より少し大きく、髪は奏と同じセミロング、それでいて女性らしい体つきをして、校内の多くの生徒から尊敬されている、彼氏は居ないらしい。
「ごめんごめん、それで何?」
「今時間空いてるよね?ちょっと手伝って欲しいことがあって……皆部活が忙しいらしくて人手が足りないの」
「それぐらいなら、いいんちょの頼みだしな」
「だからその呼び方は辞めてってば!もう……一葉って呼んで欲しいのに」
最後の方何か聞こえたような気がしたけど、いつもの事だろと考えていいんちょの後を追った。
☆
生徒会室に着いた俺といいんちょは、部屋の中に入る。
「あれ、会長早かったですね?この方が例の?」
「そ、そうよ……!」
「い、いいんちょ……?」
いきなり腕を組まれて驚きを隠せずに居る俺といつもと様子がおかしいいいんちょ。
そしてもう一人の生徒会委員に、品定めをするかのようにじろじろと見られる。
「それにしては、なんかぎこちないですよね」
「な、何よ!何か問題でも?!」
「いいえ、何もありませんよー?お二人がお付き合いしているということが分かる証拠でも見せて頂かないと」
へっ……?俺がいいんちょと……?
よく見るといいんちょの顔が真っ赤で、目が完全に蕩けていて俺の頬にいいんちょの唇が触れた。
「こ、これならどう……?」
「むふふー、会長顔真っ赤ですよー?」
「う、うるしゃいっ!」
俺は後ろにある来客用の椅子に押し倒され、あとちょっとで唇が触れそうな距離まで顔が近付いていた。
それでまた目を瞑ってそのまま……って。
「ちょ、ちょっとストップ!会長ストーップ!」
「きゃっ……ご、ごめんなさいっ!東條君……」
「いやまあ、何となく分かったけど……何でこんなことを?」
「えと……そ、そのぉ……ぁぅ」
更に顔を赤く染め、顔を逸らした。
何がどうなってんだ……?
「はぁ……会長、それじゃ駄目じゃないですか、そんなんじゃ振り向いて貰えませんよ?あっ」
少なくとも後輩に当たる生徒会委員の子は、やばそうに口塞いだ。
「……いいんちょ、どう言うことか説明してくれるかな?」
「……なの」
「え?」
「東條君の事が好きなの……!」
いいんちょが俺の事が好き……?
生まれてはじめての告白をされた俺は、ただ呆然と突っ立ってるだけ。
「ずっと好きだったの……応援にも行ってたのに、去年突然野球辞めちゃったから……話し掛けようとしても奏ちゃんがずっとそばに居て話し掛けづらかった……」
「会長……」
「今週奏ちゃんが避け出したから今しかないって思って……ごめん、なさい」
「そっか、でもごめん、会長……俺には心に決めた人が居るんだ、その想いには応えられない」
俺が好きなのは、その奏だから。
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