第9話

 カップケーキを皆で食べた後、四人で傘を差しながら帰路についていた。

 村瀬と総司、俺と奏の自然となるカップリングだが相合傘はどっちもやらない。

 村瀬と総司は次の大会の事で話し込んで、盛り上がっていて、その姿を羨ましそうに眺めてた奏に話し掛ける。


「奏、カップケーキありがとな」


「……頑張って作った」


 嬉しそうに微笑むもののすぐさま表情が変わる。


「……本当は上げるつもりじゃなかったんだろ?」


「ううん……二人にもお世話になってるから」


 その言葉通りに顔は嘘を吐いているようには見えない。


「……」


 無言のまま、総司達に気付かれないように奏は立ち止まる。


「奏……?」


「……好きなタイプ、何?」


「好きなタイプ……?」


 よく見ると奏の顔が少々赤く、濡れているアスファルトをじっと見ていた。

 好きなタイプか……考えたこともなかった。


「分からない、考えたことすらなかったから」


「……じゃあ性格」


「俺何かとうるさいじゃん?だから落ち着いた人、かな」


 まあ奏のことを言ってるんだけど、多分本人は気付いてないだろう。

 だって更に暗くなったから。


「落ち着いた……人」


「あ、あんま難しく考えんな……!だから、その……」


 俺は奏の頭に手を乗せ、こう言い放った。


「俺の事好きになってくれる人なんて……居るわけねえだろ?だから、あ、安心しろ……ど、どこにもいかねえから」


「……」


 自分でも分かるぐらい熱く赤くなった顔で、奏を見ると奏も奏で顔が真っ赤でボーッとして、目を逸らされた。

 だけど、口元は少し緩んでいて、その姿が不思議と可愛いと思った俺だった。





 ☆





 気付いたら総司達は居なくて、奏と二人きりでそれぞれの家に帰宅。

 俺はあの奏の顔が頭から離れなかった。


「お兄ちゃん、何してんの?入るなら早く入ってよ」


「わ、悪い……お、おかえり蒼衣」


「ただいま、どしたの?顔赤いけど、風邪でも引いた?」


「そ、そんなんじゃねえよ……!」


 俺は慌てて家の中に入り、乱雑に靴を脱いだ。


「?……変なお兄ちゃん」


 その言葉がグサッと胸に突き刺さり、余計に奏の事を考えてしまい、部屋に入って制服のままベッドに倒れ込む。


「……何なんだよ、これ」


 ただでさえ可愛いと思ってる奏の事を、更に意識してどうすんだ……!いざって時に何も言えなくなるだろ……。

 胸の鼓動は落ち着く所か更にうるさく激しく動き、耳まで熱く感じ出した。


「奏……」


 すぐ近くに居るのに、手の届くところに居るのに、怖くて手を伸ばせず近付けない。

 の一言すら言えない。


「……やっぱ面と向かって言える村瀬はすげえや」


 あいつらも付き合い出してもう三年になる、それなのに村瀬は総司にあんなに愛されてる。

 それに比べて俺らは……。


「もう十八年一緒なのに、付き合ってすら居ねえんだよな、はぁ……」


 気付くのも、意識し出すのも、何もかもあいつらとは違い、今になってから。

 はっきり言って羨ましいけど、妬む気にはなれない。


「……これが近すぎたって奴なのかな」


 幼馴染との間違った距離感で異性を異性として認知出来ない、とはよく言ったものだ。

 こんな調子じゃあ、ずっとこのままなのかもしれない。


「それだけは嫌、だな……奏が俺以外の他の男と一緒になるなんて考えたくない」


 だって、本気で奏のことが好きだから。

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