第6話 奏視点 気付かぬ本当の気持ち 1

 翌朝、てるの家の前で待ってたら驚かれた。

 そんなに変かな?いつも待ってて貰う側だったから、今回は逆の方がいいかなって思ったから。


「……おはよ、てる」


「お、おはよ……」


 また顔を逸らされた、でもよく見たら顔が少し赤くて風邪でも引いたのかな?

 裾を摘まんで引っ張る、まだその大きな体に触れることは出来ない。


「……てる、行こ?」


 ちょっとだけ恥ずかしかった。

 だけどてるはちゃんと答えてくれた。





 ☆






 私は眠そうなてるが気付かない内に、素早く手紙を入れた。

 本当はちゃんと言うべきなんだろうけど、私の性格上それが出来ない。上がっちゃうから。


 教室に行くと、千花が不機嫌になってて加東くんに八つ当たりしていた。

 二人が喧嘩してるのはよくないと思った私は、千花を止める。

 千花は何か言いたそうな顔してたけど、加東くんが分かってくれたのか、放課後デートの約束を取り付けた。


「わりいな、気ぃ使わせちゃって」


「……二人仲良しが一番だから」


 やっぱり喧嘩はよくない、本気でキレた加東くんと喧嘩していたてるを思い出しちゃうから。





 ☆





 放課後、千花と加東くんが本来の近さに戻ったのを見送って教室を見渡すと、既にてるの姿がなかった。

 手紙、読んでくれたんだ……。


「……よし」


 気持ちを切り替えて、てるが待つ屋上に向かう。

 屋上の扉を開けるとてるが、驚いた顔をしていた。


「か、奏……?!なんでここに……」


「……呼んだの私だから」


「別に教室でも……」


 もう何年振りだろうか、てるに抱き着くのは。

 恥ずかしくてドキドキしちゃうけど、でも自然と落ち着く、そんな感じ。


「……最近のてる、なんか変」


「か、奏も変だぞ……い、いきなり……だ、抱き着くなんて……」


「……そう?」


 変なのかな……?千花もよくこういうことするって言ってたけど。

 なんて考えてると、てるが背中に触れたような気がしてびっくりして体を震わせた。


「てる……?」


 一瞬の事過ぎて分からなかった。


「ご、ごめん……!嫌、だったよな……?」


「ううん、嫌じゃないよ……?」


 そして再び顔を埋める、気持ちを落ち着かせるために。

 少し落ち着いたところで、再び顔を上げる。


「どうして野球……辞めちゃったの?」


「総司にも蒼衣にも、言われたけど奏にだけは教えられない事なんだ……」


「なんで……?」


 ただただ純粋に気になった。


「別に嫌いとかじゃないよ?ただ今は言えない……」


「……そっか」


 三度目は顔を埋めて、すりすりと頭を揺らすと、てるの手が私の頭に触れて撫でてくれた。

 物凄い幸せな気分になって、頬が緩む。


「……てるのそれ、好き」


 好きと言ったら、撫でている手がピタッと止まってまたてるの顔が赤かった。


「……てる?」


「……え?あ、ああな、何?」


 苦笑いしてるけど頭の上にある手が、ゆっくりと私の頬に触れた。


「!……てる?やっ!あっ……」


 無意識に手を叩いてしまった。


「ごめん……」


「ち、ちがっ……!て、てる……!」


 私の声も届かず、その場を後にしたてるの背中を掴めなかった伸ばされた手だけが、そのままでその場に座り込んだ。

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