第4話

 翌日、いつもの朝を迎えるが……。


「……ねっむ」


 結局寝付けず、数時間しか寝れなかった。


「お兄ちゃん、大丈夫?無理しないでね?」


「無理そうなら授業中にでも寝る」


「おい」


「良いんだよ、これといった授業無いし」


 テストは間近だけど、一日ぐらいサボったって何にも言われない。

 それに赤点なんて一度も取ったことがない。


「そういうことだから先行くぞ」


「いってらっしゃーい」


 家を出て門を抜けると、奏が待っていた。


「……おはよ、てる」


「お、おはよ……」


 てくてくと歩いてこちらに近付き、可愛すぎるその顔で、上目遣いのような感じで見上げてくる。

 見つめ合っても一切表情を変えない奏と、段々と赤くなっていく俺。

 小さな手で制服の裾を掴み、クイクイと引っ張った。


「……いこ?」


「お、おう……」


 本当に心臓に悪い。こんなこと毎日されたら、いくつ合っても足りねえぞ……。





 ☆






 学校に着くと、靴箱から上履きを取り出そうと扉を開けると、一枚の手紙が入ってあった。

 奏に気付かれないようにそっと鞄に隠し、何事もなかったかのように自分達の教室に向かう。


「お、うーっす輝」


「総司、今日は早いんだな」


「昨日、千花がうっさくてさ」


「うるさくて悪かったわね」


 少し不機嫌な口調で、総司に突っかかる。

 この後の事は予想出来る為、口を挟まずに自分の席に着く。


「大体!昨日なんでさっさと帰ったのよ!」


「しょうがねえだろ……俺だって最後の大会で忙しいんだからよ」


「むぅ……!」


 一年の頃から、この時期の二人は喧嘩が絶えない。

 お互いの言い分も分かってしまうが故に、口も挟めないのが正しい表現だ。


「……千花、落ち着く」


「奏……でも!」


「……もう何年付き合ってるの?」


 だけど、奏は違って二人の喧嘩によく介入する。


「はぁ……今日休みだから、行きたいとこ連れてくけど」


「総くん……」


「なんかわりいな、気ぃ使わせちゃって」


「……二人仲良しが一番だから」


 凄く優しい奏の自称ファン共が、こぞって見惚れていた。

 ……少々ムカつくが、付き合ってすら居ないからキツく言えないのが一番の悩みだ。

 三人が自分の席に戻った後、俺は鞄の中から先ほどの手紙を取り出して中を見る。


『放課後、屋上で待ってます』


 とだけ。

 差出人不明だが、字がどうも女の子っぽい。


「……ま、すぐ終わるだろ」


 だがこの時、まさかあんなことになるとは思っても見なかった。





 ☆





 そして放課後、誰にも見られないようにこっそりと教室を抜け出し、屋上に向かう。

 今は五月の終わりだというのに、まだ少し寒い。


「……早く来すぎたか?」


 屋上には誰も居なかった、早く来すぎたと思いもう少しだけ待つことに。

 そして数分後、屋上の扉が開き後ろを振り返ると。


「か、奏……?!なんでここに……」


「……呼んだの、私だから」


「別に教室でも……」


 ふわっと甘い匂いが俺の鼻をくすぐり、一体何が起こったのか分からなかった。


「……最近のてる、なんか変」


「か、奏も変だぞ……い、いきなり……だ、抱き着くなんて……」


「……そう?」


 俺は小さく頷き、そっと背中を触れようとすると。


「てる……?」


「ご、ごめん……!嫌、だったよな……」


「ううん、嫌じゃないよ……?」


 もう可愛すぎて死にそうなんだけど。

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