第3話 奏視点 秘めた想い

 今日、てるがくれた髪飾りを付けることにした。

 今までは恥ずかしくて付けることが嫌だったけど、何か意味があるんだろうと思ってようやく付けた。

 でも改めて付けると、四月の頃を思い出してしまう。


「……今日だけ、ダメだったらいつも通りで」


 今日だけのつもりだった、でも朝はてると一緒だから最初は驚いてたけど、次第に優しい声で似合ってるよと言われた時は変な感覚だった。

 学校に着いても、お友達の千花ちゃんも同様に可愛いとか似合ってるって言って貰えた。


 放課後、てると加東くんが何やら話していた。

 盗み聞きという訳じゃないけど、気になって少しだけ聞こえる距離まで近付いた。

 この時程、自分の身長が役に立つなんて思っても見なかった。でも。


「……聞き取れない」


 それもそのはず、他にも生徒が居るのと対して大きい声で話してる訳じゃない。

 今のてるとの距離は、五席分。


「……行くわ」


「サン……」


 どうやら終わったようで、加東くんの声を機に部活動に行く人が多い為、私達だけとなった。


「……てる、帰ろ?」


「うん……」


 小学生の間は私が大きかったのに、気付いたら抜かされたこの身長差。

 まるで心の距離のように思えて、少しだけ寂しかった。


 帰ると言っても、朝同様ずっと何も話さないまま。

 いつもならてるが話し掛けてくれるけど、今日は私から。


「……てる、これありがと」


 私は貰った髪飾りに触れて、お礼を言った。


「う、うん……」


 でも、てるは反対方向を向いてしまった。

 何でだろう?朝は似合ってるって言ってくれたのに……。


 そのまま家に帰宅した私は、初めて貰った熊のぬいぐるみを後ろからぎゅっと抱き締めながら、帰りの事を考えてた。


「……最近のてる、変」


 私が話し掛けても毎回同じ返事で、そっと近付けば、同じように離れていく。

 それが二人きりだと露骨で、理由を聞きたくても何故か怖くて聞けなかった。

 突然メッセージが送られてきた。


「……てるからだ」


『今起きてる?』


 てるは寝れないのかな?


『起きてる』


『今何してた?』


『てるのこと考えてた』


 無意識に送ったこの文を見て、急に顔が熱くなって、慌てて送り直す。


『あ!やっ違うの!何してたのかなって……』


 そんなことは考えてなく、ただただ無意識だった。


『髪飾り、ありがと似合ってるっていっぱい誉めてくれた』


 その下に小さな猫が可愛くやったーみたいな感じのスタンプを送る。

 その後も話せなかったことを話せて、凄く楽しくて胸いっぱいだった。


「……でも」


 ずっと気になってるのは、大好きだったはずの野球を辞めたこと。

 加東くんと一緒にバッテリー組んで大きな大会まで出たのに……。


「……何かあったのかな?」


 格好良くて好きだったのに、野球やってる姿。

 そのせいか、てるの妹の蒼衣ちゃんが、あんなに仲が良くたって、その件で喧嘩してた気がする。

 それは当然加東くんを始めとするチームメイトや当時のクラスメイトとも。


「……また見たいな、てるの野球やってる姿」


 誰よりも一生懸命にやって、誰よりも負けず嫌いで、大会で負ける度に誰よりも悔しそうに泣いてたあのてるの姿をずっと見てきたから。

 まだはっきりとは言えないけどてるのこと、好きだと思う。

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