第6話 甘えてほしい
結局自分から付き合って欲しいと言った。
そしてこれから先生の家に向かう。
自分から行くと言った。
先生がなかなか押してくれなかったことが理由だけれど、結局は私が決めた結果になった。
途中、コンビニに寄って欲しいと声をかけた。
「なんか買うの? 化粧水とかならウチにあるよ? 歯ブラシも使い捨てので良ければ何個かあるし」
「替えの下着が欲しいんです」
「どうせ脱いじゃうのに」
「脱いだ後に履くやつです」
そう言うと先生は楽しそうに笑っていた。
コンビニへ寄った後、病院からそう遠くない、通勤途中で見かけたことのあるマンションの駐車場へ車は入った。
「病院から近いのに車出してもらってなんか申し訳なかったですね」
「昨日外当直に車で行って、そのまま病院帰ってきたからどうせ車だったの。それに、今日、ウチに連れてくる予定なかったしね」
車を降りて三階にある先生の部屋に向かう。
私が住むワンルームのアパートとは家賃が大分違うことがわかるようなマンションだった。
玄関の扉を先生が開ける。
後から気付いたが、コンビニではなくてウチに寄った方が良かったかもしれない。
けれど、その数分の差でさえも気が急いで煩わしく感じただろう。
「せっかくだからもう少しドライブした方が良かったですか?」
さり気なく先生の気持ちも探る。
「それはちょっと待てないかも」
後ろから抱きしめられた。
「すっごく嬉しい。信じられない」
心臓の鼓動が速くなる。
腕を介して先生にも鼓動が伝わっている気がする。
先生の方へ向いて私も背中に腕を回す。
先生の匂いに余計気持ちが高まる。
さっきまでは手を握ってもらいたっかっただけなのに、知らないうちに先生から抱きしめられることを望んでいた。
抱きしめられることが予想外に私を満たす。
「青木さん身長どれくらい」
いきなり場違いなことを聞いてきた。
何で今そんなこと聞くんだろう。
「百五十九くらい。先生は?」
「百六十八。ちっちゃいね」
「ちっちゃくないですよ。普通です。っていうか、今からすること分かってますか?」
先生に不満をぶつけた。
「ごめん。緊張しちゃってなんか。自分でもおかしい」
そんな情けない顔しないでほしい。
先生の顔を両手で引き寄せ、自分からキスをした。
「青木さんって誘うの上手だね」
「こういうことするの先生が初めてですけど」
「そうやってまた誘う」
先生から深いキスをされる。
興奮して私も求めて激しくなる。
唇と舌を何度も吸われて立っていられない。
力が抜ける私を先生が強く抱きしめて支えてくれる。
クラクラする頭でなんとか伝える。
「シャワー借りていいですか」
「私、気にしないよ」
「仕事の後なんで私が気にするんです汗とか」
「頑張った証拠だから私は好きだけど」
私の首筋に唇をつけて舌を這わせる。
「汗だけじゃなくて、患者のケアもしたから」
なんとか自分の体を離した。
先生の舌が触れた部分が切ない。
もう少し触れられてたら確実にシャワーに入り損ねた。
「ちょっと片付けたりするから私先に入るね」
リビングに入りソファーに座った。
家の中は物が少なくて殺風景だった。
先生の趣味とかそういうのが感じられる物が何一つなかった。
テーブルの端にパソコンと医学書などが積んであるくらいだった。
私が知る女性の部屋とはかけ離れている。
本当に仕事しかしてないんだな。
先生はあっという間にシャワーを浴びて出てきた。
タンクトップに下着姿だった。
暖房が効いているとは言え、寒そうというか、雰囲気とかそういうのをまるで考えていない。
でも、そんな色気のない下着姿だけど、細くてカッコよかった。
「シャワーどうぞ」
入れ替わりで浴室へ入る。
浴室も必要最低限のものしか置いてなくて、生活感がなかった。
シャワーのお湯に当たりながら、これから女の人とすることへの実感が湧く。
身体を洗っている時、下腹部のぬめりに驚いた。
キスしただけなのにこんなになるなんて。
私も相当興奮してたことに気付かされる。
さっきのキスを思い出すとまた疼きはじめる。
シャワー入った意味なくなっちゃう。
初めて抱かれるけれど、色気のないコンビニの下着を身につけることにした。
先生もあんな姿だったし別にいいかと思った。
シャワーから上がり、着ていた服を身につける。
扉を開けると壁にもたれて先生が待ち構えていた。
「あれ、また服着たんだ」
私を見て笑う。
先生は上からパーカーを羽織っていた。
「バスタオル一枚で上がってくる勇気ないですから」
ムッとしながら返した。
寝室に通されてベッドに座る。
「寒くない? 一応、部屋あっためといたんだけど」
「大丈夫です」と答えた。
寝室にはセミダブルのベッドしか置いていない。
さらに殺風景だった。
以前にも誰かここに通されたのだろうか。
変なことが気になる。
「青木さん。本当に私でいいの?」
隣に座りながら先生が確認してくる。
いいって言ってるのに。
今更野暮なことを聞く。
もう敬語はやめた。
「先生、いい加減名前で呼んでよ」
「美穂……ちゃん」
「これから抱くならそこは呼び捨てじゃない?」
「そっちこそ。これから抱くのに先生は嫌だな」
言えないくせに焚きつけられた。
かわりに誘うように言ってやる。
「綾乃って何人も女の人抱いてきたんでしょ。その割に案外意気地なしだね」
あえて先生の負けず嫌いな所に火をつける。
「こんなに緊張するの初めてなんだよ。でも、今のでいつもの調子出てきた」
いつものって所に嫉妬する。
多分、先生のことだからやり返してきたんだと思う。
「私の名前、知っててくれたんだ。嬉しい」
恥ずかしそうにする先生がかわいい。
でも結局先生が上手だ。
さりげなく嫉妬させたり、かわいい顔したり。
そういう所にまんまと乗っかって自分の気持ちがたかぶってしまう。
今まで抱いてきた女と比べる余地がないくらい好きにさせたい。
「いつもみたいな強気で抱いてほしいよ」
意気地なしな南先生への当て付けに自分から服を脱いだ。
「美穂のそういうの結構好きだよ」
普通に呼び捨てできるじゃん。
先生も自分でパーカーとタンクトップを脱ぐと私をベッドに押し倒した。
押し倒すと同時にキスされる。
さっきしたばかりなのに待ち遠しかった。
先生の肌はすべすべしてて柔らかかった。
女性の身体の感触の気持ちよさに驚く。
深いキスを続けながらお互いの身体を重ね、肌をさする。
肌をすり寄せるだけで心地いい。
何よりも、先生の身体が綺麗で興奮というか欲情している。
胸は大きいわけではないけれど、首や肩、鎖骨がすごく綺麗だった。
自分も触れたい衝動にかられる。
思わず綺麗な鎖骨に吸い付き跡をつける。
意外にもくっきりついてしまった。
「ごめん。スクラブ着れなくなっちゃうかも」
「いいよ好きなようにつけて。美穂にもつけていい?」
「どうしよう」
「白衣着ればいいじゃない。首まで隠れるでしょ。それに、白衣着てる美穂、すごくかわいいって思ってた。最近着てないね」
そう言いながら先生は大きな手で私の額から髪に指を通し撫でてくる。
「美穂、かわいい」
顔が近くて恥ずかしくなる。
仕事中の立ち振る舞いや髪型のせいでクールで男性的な印象だが、近くでよく見ると女性の色気を感じる顔立ち。
そこへ私の好きなあの優しい表情をされると途端に恥ずかしくなる。
ドキドキしすぎて見てられない。
「もう。好きにしていいよ」
先生の首に手を回し抱き寄せた。
柔らかい髪質の長めのショートヘアに指を絡める。
同時に肩の辺りを吸われる感触がした。
先生の愛し方はすぐに結果を求めるようなものではなくて、時々耳元で私の反応を確かめてながら、私を心地よくするものだった。
何度もキスしてくれて、身体の隅々まで愛してくれて。
独りよがりじゃなくて、私のことを最優先にしてくれる愛し方。
こんな風に抱かれることは初めてだった。
下腹部に直接触れていないのに全身の感度が上がっているのが分かる。
肌を軽く撫でられるだけで反応してしまう。
今まで自分には性欲がそれほどないと思っていた。
過去の恋人とのセックスは、あればそれでいいし、別になくてもかまわなかった。
でも、こんな抱かれ方されたら、きっとこれからは自分から求めてしまうに違いない。
先生の指が下腹部に移動する。
割れ目の内側をするりとなぞられるだけでのけぞってしまう。
同時に自分でも驚くほど甘い声が出る。
「こんなに感じてくれてたんだ。嬉しい」
下腹部がどういう状態になっているか想像がつく。
疼いて切なくてどうしようもない。
自然に腰をよじらせるよう動かしてしまう。
その度に先生の指が敏感な中心に当たりこらえきれないような刺激を受ける。
自分から先生の指先に押し付けているようにも感じるが制御できない。
自分からそんなことするなんていやらしい。
先生に優しくキスされる。
先生のキスが好きだ。
「先生、そろそろ、欲しい」
「もうちょっと我慢できない?」
「ちょっと、無理」
「そっか」
先生の指を受け入れるのに充分すぎるくらい潤った入り口に指が滑り込んでいく。
あのキレイな細長い指が入っていると想像するだけでも頭の中が痺れるほどの興奮で満たされる。
指は入っていくだけでなく私の中で押さえるように、いい部分を探ってくる。
いつもならその部分に当たらなくてもどかしさを感じることの方が多かった。
でも今は探られてるだけでも、いい部分ではない所でも感じてしまう。
自分からより深く先生の指を沈めさせるようにして腰を寄せる。
なんなのこれ。
もう耐えられない。
「先生。だめ。無理」
「先生じゃないでしょ?」
今まであえて触れてこなかったんじゃないかと思うようにピンポイントでグッと押される。
「ううっ」
「ねぇ、先生って呼ばないで」
そのままその部分を一定の間隔で押され続ける。
そのうち外側の敏感な部分も同時に押される。
「あっ、綾乃、もう。ほんとに」
肩にしがみつくと先生の口で口を塞がれた。
舌の感触で一気に登りつめ、身体が硬直した。
身体の内側がビクビクする。
ここまで強い波を感じたのは初めてだった。
最初から最後までずっと快楽が私を支配し満たしていた。
果てた後、強い気怠さに襲われる。
脱力して動けない。
「もっと色々したかったんだけどな」
他にも色々されたら身体が持ちそうもない。
ちゃんと果てるとこんなに疲れるのか。
返事ができなかった。
「大丈夫?」
私を抱きしめ顔を寄せてくる。
「大丈夫。今まで、こんなにちゃんといったことなくて」
「私が一番上手ってこと?ふふふ。やったぁ」
額にキスされる。
「美穂ちゃんさぁ、着痩せするんだね」
「え。そんなに太ってた?!」
そりゃあ、細身の先生に比べると多少肉はついている。
「そうじゃなくて。意外におっぱい大きくて驚いた。脱がなきゃ分からないもんだね」
先生はわざわざ掛け布団を持ち上げて確認する。
「やだ。ちょっとやめてよ」
そして胸に顔をうずめてきた。
くすぐったくて身をよじる。
「あ、分かった。スクラブだと分かんないんだ」
「確かに白衣は身体の線目立つかも」
「だから白衣の美穂ちゃんかわいいんだ。白衣見たいけど他の奴らに見せたくない。ジレンマ」
何を馬鹿なことで悩んでいるんだろう。
でもそれが可愛くて胸に顔をうずめている先生の頭を抱える。
「先生さ、病院でなんであんなにピリピリしてるの? 本当は全然違うじゃない」
胸に顔をうずめている先生は、私を見上げるようにして言う。
「私、仕事全然余裕ないんだよね。人の倍やらないとダメなんだよ。女だから余計。男に負けたくないっていうのもあるけど」
「先生達の中でも飛び抜けてできるのに?」
「今はもうそれなりに経験積んだからなんとかなってる所あるけど、いまさらキャラ変えられなくて。ちょっとでも気を抜いたらダメになりそうで自分にも周りにも厳しくなっちゃうの。周りに線も引くし」
先生の髪を撫でる。
「甘えてよ。私には甘えたり泣いたりして欲しいよ」
「ありがと。もっと歳上らしい所見せたいんだけどね。美穂ちゃんのおっぱいに時々癒しをもらうね」
胸に吸い付いてきた。
果てた余韻でまだ身体が敏感になっていて先生の唇と舌に身体がピクつく。
あんな抱かれ方された後、さすがに身体が追いつかない。
「ちょっと! 真面目に聞かない人にはもう触らせません」
手で胸を隠し背を向けた。
後ろから抱きしめられ耳元で言われた。
「美穂ちゃん。私、美穂ちゃんと付き合えるだけで幸せなのに、そういうこと言ってくれて、幸せすぎて怖いくらいなの」
それだけ言うと、仕事の疲れもあったのか先生は私を抱きしめたまま寝息をたてはじめた。
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