第7話 仕返し
「美穂ちゃん」
先生の声で目が覚めた。寝返りをうち、先生を見るとすでに着替えとメイクを済ませていた。
「あ、そっか。先生、出勤だよね。ごめん。私もすぐ準備する」
慌ててベッドから出ようとすると制される。
「ゆっくりしてなよ。これ、鍵。もしよければずっと持っててもらえるかな。家の中のもの自由に使っていいから」
鍵を受け取る。
「あと、さ。これから学会でいつ会えるか分からないから。美穂ちゃんが良ければ、今夜ここで待っててくれる? 今夜も美穂ちゃんのこと抱きたい」
胸の奥がズキズキする。
本当は今すぐ抱いて欲しい。
「一回家帰って、ちゃんとした下着とか持ってくる」
唇を重ね、抱きしめた。
「こっちにもキスさせて」
そう言うと先生は私の胸の先端を唇で挟むようにキスした。
「あっ。やだ。ちょっと! 先生エロい」
「あー、このまま美穂ちゃんとずーっとベッドでいちゃいちゃしたいのにっ。はぁー。がんばってくるわ」
先生からはベッドにいなよと言われたけれど、先生のパーカーを羽織って玄関の所まで見送った。
玄関の高さで背が同じくらいになる。
「美穂ちゃん」
先生がキスしてくれる。
唇が触れるだけのキス。
足りない。
先生の首に手を回す。
「先生、もっと」
先生はちょっと驚いた顔をしたが微笑むと私がして欲しいキスをしてくれた。
名残惜しくて何度もキスをした。
今夜会えるのに。
どうしたんだろう。
先生のことが好きでたまらない。
「先生っていつも何食べてるんですか?」
「なんで?」
「冷蔵庫に何も入ってないし、調味料とかもないから」
朝、冷蔵庫を開けて驚いた。
ペットボトルの水と炭酸水、冷凍庫にはコーヒー豆しか入っていなかった。
まさかと思い台所を見ると炊飯器はあるけれど米はないし、ほとんど使ってないフライパンがあるだけだった。
何も食べるものがない。
ペットボトルの水一本をもらい、自分の支度をして朝のうちに家に帰った。
「醤油はあるよ?」
「塩と砂糖とか普通にあるものがないです」
先生は気まずそうな顔でボソッと言う。
「なんか、食べることに興味がないんだもん」
「この間お洒落な店連れてってくれたじゃない」
「あー、忘年会の時の。あれは。ちょっとカッコつけてっていうか。元カノが昔教えてくれてよく待ち合わせしたとこで」
そんないわくつきの店で告ったのか。
それはちょっと聞きたくなかった。
「誰か来た時とかどうしてたの?」
「誰かって?」
「その、昔の女とか。」
「ああ、部屋に誰か入れたことないのよ。美穂ちゃんが初めてかも。いつもはホテルとか車で済ませてたから」
悪びれずさらっと言う。
「そういうこと聞きたくないってば」
「あ。嫉妬しちゃったの?」
にやついて聞いてくる先生に腹が立つ。
「先生って私のこと好きになってからホントに誰とも付き合ってないの?」
「うん。付き合ってはない」
私から目をそらした。
「なんか含みあるね」
「一晩だけはあるけど」
「先生モテるんだね」
「そうね。こっちから誘ったことはないかな。大体寄ってくるね。割り切ってるしね。
」
嫌味で言ったのにその返し方。
無言になってみる。
「怒った?」
「食べることに興味ないとか言って女は食べたくなるんだ」
「仕事とかのストレスで。あと、美穂ちゃんへの想いが伝えられなくて寂しくなったりとか? でももう食べる必要ないから」
先生が私の首に腕をまわす。
胸の奥が熱くなる。
抱きつきたいのをこらえ、顔を背ける。
「他の女食べたら即別れる」
不機嫌に言った。
「ごめんごめん。で、早速食べていい?準備できてるでしょ? 美穂ちゃんの勝負下着、今日ずっと想像してた」
「よこしまなこと考えながら仕事しないでよ。その前に、シャワー浴びてご飯食べて。簡単だけど作ったから」
先生はやっぱりあっという間にシャワーから出てきた。
そして今日もタンクトップに下着姿でパーカーを羽織っていた。
意外にも先生は喜んで料理を食べてくれた。
味噌汁とご飯とサラダと蟹玉。
先生の家では作れそうもなかったので自宅で作ってきた。
蟹玉は半分レトルトのようなものだし、味噌汁はインスタント。
大したものではない。
「味噌汁飲んだの久しぶり」
そんなことを言いながら、なんだかんだ全部食べてくれた。
食事を済ませた先生は待ちきれないと私に抱きついてくる。
「そんな焦んなくても」
口ではそう言ったがはやく抱いて欲しかった。
「今日は脱がせるから。自分で脱がないでね」
そのままリビングで抱き合う。
唇を割って入ってくる柔らかい舌の感触。
今日、ずっと待ちわびてた。
服を半分脱がされたまま首筋や胸元に吸いつかれる。
昨日よりも荒々しい。
脱がされかけた服がみだらな感じがする。
「美穂ちゃん、下着大人っぽくていいね。めっちゃ興奮する」
下着をずらして胸にしゃぶりつかれる。
自宅でどの下着にしようか迷った。
一番大人っぽいのを選んだ。
「脱がせちゃうのもったいないな。色っぽい」
昨日と同じように私が我慢できずあっという間に果ててしまった。
でも今日の先生は許してくれなかった。
「今日は色々させてね。もっとしたい」
ベッドに移動すると、先生もタンクトップを脱ぎ、裸で抱き合う。
今度は私の腕や脇、脇腹にキスされ舌でくすぐられる。
その度に声が出る。
「ここ好きなの?」
背中を舌でせめられ、うつ伏せのままシーツにしがみつく。
時折甘噛みされ力が入る。
仰向けにさせられると太ももの内側に舌を這わせられる。
さっき果てたばかりなのに身体が先生を欲しがる。
「可愛い下着、濡れちゃったね」
「さっきからエロいこと言わないで!」
「じゃあ、あんまりしゃべるのやめる」
そう言いながら、下着をずらして私の下腹部に顔を埋めた。
「ちょっと。やだ。ああっ!」
ついさっき限界まで濡れた後、さらに潤いを増した部分に柔らかくて温かい感触が広がる。
先生の舌が敏感な部分を優しく包み込む。
「どう? 気持ちいい?」
かわりに喘ぎ声でこたえる。
快楽に頭と身体が占領され、何も考えられない。
足の裏まで熱くなる。
さっきから恥ずかしいくらいに声を上げる。
下腹部の奥が先生の指を待ち焦がれている。
「先生、ゆびっ。入れてっ。お願いっ」
気がつくと懇願している自分がいる。
自分からはっきり入れて欲しいなんて言ったことがない。
「私の舌でいって。いくまで優しくするから。たくさん気持ちよくなって」
先生は指を入れてくれなかった。
かわりにとろけてしまうような舌での愛撫をしてくれた。
奥の方の疼きでより快感が増す。
こんなに気持ちいいことされたことない。
「やっぱり脱がせるね」
下着を脱がすと先生はかぶりついてきた。
邪魔なものがなくなったせいで先生は舌と唇を使い愛撫はさらに快感が増す。
でも、終始優しく触れるからか、快楽の波は穏やかに高くなっていく。
こんなことされたらおかしくなってしまう。
部屋に唾液と液体の音と私の声が響く。
緩やかに登っていった快楽はやがて絶頂を迎え、強い快感と共に果てた。
腰がビクビクしている。
言葉に表せない満足感。
気持ち良すぎて意識が朦朧としている。
先生に抱き寄せられる。
しばらく腕に抱かれてぐったりしていた。
「気持ちよかった? やりたかったんだよね」
「変態。そんなとこずっと口つけて」
「美穂ちゃんされたことないの?」
「あんまり」
「あら、もったいない」
自分の乱れた姿を晒すことや、そんなところに口をつけられることに少なからず抵抗があった。
「ちょっとそこまでされると気持ち悪いって思ってて」
でも先生の前ではさらけ出せてしまった。
同性だからなのだろうか。
先生だったら受け止めてくれそうな気がして自分の性的な興奮を素直に受け入れゆだねることができた。
先生の腕の中で少し休むといくらか余裕が出てきた。
昔の女のこととか、ワンナイトのこととか、さっき話してたことがふと頭に浮かぶ。
色々と意地悪されたことへの仕返しがしたくなった。
「でも逆はしたよ」
「?」
「相手には口でしてたよ」
「聞きたくなかったー」
仕返しだけれどちょっとやり過ぎたかもしれない。
先生が自分の額に手を当て前髪をぐしゃっとつかんでいる。
私の言葉に引いているのが分かる。
逆の行為は相手にお願いされて気が進まなかったがやった。
だけど、今先生にはそうは思わない。
「先生はいいの? されなくて」
「美穂ちゃんの乱れた姿と声で満足」
意地悪く微笑む先生を見つつ、身体を起こす。
「だから、さ、逆はやってたんだよ。私も」
先生のこともっと知りたい。
先生と色々やってみたい。
先生にはそう思う。
自分の性的な部分が解放された気がする。
「え? なに。ちょっと!」
今度は先生の足の間に顔をうずめた。
なんだ。
先生もトロトロじゃん。
舌を這わせると先生は声にならない声を出す。
「美穂ちゃん! いいから。私はいいから! はぁっんっ!」
「大人の女の人がよがるのって興奮するね」
顔を赤くして恥ずかしそうにしている年上の女性。
私の舌に反応している。
「先生、女の顔してる。かわいい」
自分の変化と適応能力の高さに少し驚く。
閉じようとする脚を押さえて唇を押し付ける。
「ダメって言ってるのにっ。いやっ、ああっ」
何か媚薬でも含まれているのか。
とろりとした液体を舐めとるたびに頭の奥まで痺れるような興奮を感じる。
唇と舌の中で時折ぴくっと震えるみずみずしい柔肌と突起の感触がたまらない。
夢中で吸い付き舐め回す。
先生は意外と可愛らしい声をあげる。
「先生って美味しいんだね」
言ってから後悔する。
なんてこと言ってるんだろう。
「そんなことっ。恥ずかしいっ。はぁっあっ」
先生の余裕のない言葉に後悔は一瞬でかき消される。
自分が興奮してしまい、先生のような柔らかい愛撫が私にはできない。
唇を離すと、先生の入り口が私を誘うようにひくついている。
たまらず指を滑り入れる。
温かくて柔らかい柔肌が指にまとわりつく。
指なのに柔肌から与えられる心地よさを感じる。
指を動かすとなおさらだった。
先生は胸元まで赤くして目を潤ませている。
息遣いが荒い。
男ってずるい。
男になって先生の中に入れたらと思ってしまう。
そうすれば先生を両手で抱きしめて艶っぽい綺麗な顔を、表情の変化を間近で見られるのに。
しかも自分も最高の快感を得ながら。
それにしても年上の女性を抱くのってたまらない。
というか、こっちの方が興奮するかも。
再び敏感な突起を口に含み、舌でくすぐる。
くすぐりながら柔肌に包まれた指を動かす。
いやらしい水音と今度は先生の声が鳴り響く。
先生、かわいすぎ。
突起に吸い付くと指にまとわりついた柔肌が痙攣し締め付けた。
きゅうっとさらに吸い上げる。
もっと先生の柔肌を味わいたい。
「美穂ちゃん、もう、いっちゃったから……」
名残惜しかったけれど、唇と指を先生から離す。
肩で息をしながら涙目で見てくる先生が艶っぽくて綺麗だと思った。
「ずいぶん年下の女の子にやられた」
先生はうつ伏せで枕に顔をうずめている。
「嫌だった?」
「恥ずかしい」
「綾乃、かわいい」
「綾乃言うな」
「あんなに先生って言わないでって言ってたのに」
「ネコは慣れてないんだもん。美穂ちゃんってホントはタチなの?」
「なにそれ。先生猫っ毛なのに」
「えっと、髪質のことじゃなくてね」
言葉の意味を後から聞いた。
色白の先生は耳まで赤くなっていた。
枕の隙間から私を見て言う。
「美穂ちゃんがカッコよく見える。どうしよう。やばい好き」
先生のその仕草のせいで私もやばい好きって思ってるよ。
こんな先生見たら男だってほっとかないでしょ。
自覚あるんだかないんだか。
「これから私も綾乃のこと抱かせてね」
背中にキスマークをつけた。
「綾乃は私の」
小さい声で思わず呟く。
聞こえたかどうかは分からない。
先生は恥ずかしそうに再び枕に顔を押し付けた。
「もう何も言えない」
枕のせいで声がくぐもっていた。
私が先生を抱いたこの日から、先生は変にカッコつけなくなり、私の前ではデレるようになった。
付き合ってまだ二日目のこと。
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