第24話 束の間の幸せな私
離れの鍵をもらうとヴァンサンと荷物を運び私は本邸から出て行く。
一応離れの管理人は居たけど少し前に病気になり今は手入れされてないらしく、小さな家の庭は雑草や虫がたくさんいそうだった。
後、野良猫が住み着いておりそこら中に縄張りの糞を撒き散らしており私達はまず掃除から取りかかった。
「ここら辺の草刈って畑にしたらいい野菜が育ちそうだよ」
とヴァンサンはにこにこしながら草をぶちぶち抜いていた。
住み着いてる野良猫は眼光鋭く私達が掃除をする様子を見ていた。
私が餌をやろうとしたら近寄らないのにヴァンサンが餌をあげようとしたら寄ってきた!!
猫この野郎!!お前も顔で判断してんの!??お前も言っとくけどブサ猫だからなっ!!
猫と睨みつつも綺麗になっていく離れの小さな家は本当に私とヴァンサンだけでもう結婚してるんじゃないかと勘違いしそうになるわ!
本邸から料理の材料も少し分けてもらっていたので私は調理をして一緒にヴァンサンと食べているとどっからかブサ猫が入り込んできて食事をねだった。お前んちじゃねーからな!!
「はは!こいつ肝が座ってんなぁ!名前を付けて飼ってやるか?ねぇオレリー何か名前を付けてよ」
と言うので私はうーんと考えた。
「じゃあ…お腹がボンと出てるからボンで」
と言うとヴァンサンが笑いボンはムスッとしていた。
次の日に玄関先に死んだ小鳥がいたから
「ぎゃー!!」
と叫んだらヴァンサンが笑いながら
「ボンのやつ狩をして俺たちにお礼したのかな?」
と頭を撫でてやるがボンは私の方を見て目を細めた。こいつ!!
それでも私とヴァンサンとボンの生活はそれなりに楽しかった。
ヴァンサンは相変わらず本邸の商人達の靴を磨いていたし私も畑作りをやり始めた。土を触っていると落ち着くわねぇ。
………。
て!落ち着くわねぇー!じゃねぇよ!!
私はおばあちゃんか!!
違う違うー!そもそも恋人同士なのにもうちょっと何かラブラブしたい!
ヴァンサンが今まで恋愛したことないから奥手なのはわかるし女の人のことちょっと苦手なこともわかるけーどーーー!!
……でもブスなんだよな。私。
しかしこのブスをヴァンサンは好きになってくれたしそこは嬉しいんだ。
もう恋人同士の過程をほとんどすっ飛ばしてるけど!!折角二人きりなんだからブスだってイチャイチャしたい!しかしどうすればいいんだ!?あの天然ヴァンサンとイチャイチャなんて私から出来ない!
ヴァンサンももはや結婚した気でいるのかくつろいではいるけど何もないわ!!
朝食を作っているとヴァンサンが起きてきて眠そうに目を擦り
「おはようオレリー、手伝うよ」
「はい、おはよう。お皿を並べて」
と食卓にお皿を並べるヴァンサン。
スープとサラダとパンと卵という普通の朝食を並べて対面に座り神に祈り食べ始める。
「ヴァンサン…」
「ん?どうかした?オレリー?」
キョトンとしモグモグ食べながら話すヴァンサン。
「…今日は靴仕事も休んでゆっくりしない?」
「ゆっくり?でも…やる事もないし、俺は本も読めないし、なんかやってないと暇じゃないか?」
ダメだ…とても言い出せない。イチャイチャしようとか。しゅんとしてるとヴァンサンが
「どうした?オレリー?また体調が悪いのか?」
と心配してくれた。
「ううん、大丈夫よ。私は健康よ!ようやくちょっと落ち着いたから精神的に疲れたのかしら?ごめんねヴァンサン!いつも通りにしよ!畑に水やってくるわ!」
と私はバケツを持ち外へ出た。
ブスを愛でてほしいとかおこがましいよね。
水をやり終わると本当に暇になった。
ヴァンサンの靴磨きの仕事を手伝ってもいいけどなんか気まづいなぁ。
水桶を持って家の中に入るとヴァンサンが
「ちょっと出かけてくるよ。町まで仕入れの素材もらってくる!オレリーはここにいて!」
「え?手伝うよ」
「いいから?オレリー疲れてるって言ってたから少し横になっていてよ」
と言い、ヴァンサンは町まで一人で出かけて行ってしまった!やはりブスはお荷物か…。
するとボンがやってきて柱にガリガリ爪とぎを始めたので
「こらっ!ボン!そこはダメ!こっちの木にしな!」
とボンをしつけることにしたがちょろちょろ逃げ回り変なところにオシッコした!!
くっ!ヴァンサンの言うことなら聞くのに!舐められてるじゃん!ボンめ!
夕方になり夕飯の支度をしているとヴァンサンが花を抱えて戻ってきた。
「わぁ!どうしたの?」
「へへへ、オレリー花でも見て元気になってほしくて花屋から買ったらおまけしてくれてたくさん貰えた!!」
きっとヴァンサンがいい男だからだな。
「ありがとうヴァンサン!ちゃんと綺麗に飾るわ!」
と花瓶を用意しようとしたらヴァンサンにギューっと抱きしめられてまたいきなりだったから私は心臓が止まりかけたわ!!
「町で仕入れの親父さんに恋人っていうか結婚相手が見つかったって言ったら喜んでたよ。ほら、前に俺の村にもよく来てくれる行商人のおじさんだよ」
ああ、あの人か。町に住んでたのか。
「オレリーのことを話したらちゃんと可愛がってやれって!毎日ハグしてキスするんだって散々言われたんだ。また絵も描いてやるから二人で来なって!」
と言い、ヴァンサンは照れながら
「オレリー。大好き!!」
と言い、初めて私の唇にちゃんとキスをくれ、私はもう死ぬんかな?と思った。
お互いに真っ赤になり、夕飯の鍋が吹いたので慌てて火からどかした。
「そう言えばさ、俺今日、町で見たんだよ」
と言うヴァンサン。
「何を見たの?」
ヴァンサンはちょっと怒ったように言う。
「あいつだよ!パンだよ!俺に気付かないで働いていたよ。金物屋でさ。下働きだろうね。関わりたくないから直ぐ帰ったけど…。手は手袋をはめて隠していたよ」
「パンが…」
「きっとオレリーのドレスとかを店主に売って働かせてもらってんだ…こっそり密告する?」
とヴァンサンは言うが
「いや、いいよ。パンも奴隷時代は辛い目にあったから逃げ出して来たんだと思うし…。ほっとこう」
「優しいなオレリーは。あいつは直ぐ人を騙したりできるから…オレリーみたいなのは引っかかってしまうんだ」
「ブスを騙したところで特にもならないよ…」
と言うとブニっと頰を軽く摘まれ
「俺は可愛いと思うけどなぁ」
「ええ?ヴァンサンが特殊なのよ…」
「へへへ、そうかなぁ?」
「そうだよ」
と額を合わせ笑い合った。本当に幸せだと思った。
その夜は何もしないけど二人とも同じベッドでくっ付いて眠った。そろそろ秋だし少し寒かったし。
そして次の日の朝にお母様やジャネットにリュシーが顔色を変えて離れに飛び込んで来たのだった。
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