第2話 学食

 横スライド式の扉を開くと、そこは学生でごった返していた。

 「薫、今日は何食べる?」

 そう聞いてきたのは葵だ。葵は肩にまで掛かるストレートの黒髪を、赤いゴムで結びながらそう聞いてきた。

 「今日は、って。あんた中華以外食べたことないでしょ」

 「でへへ。そうだった」

 葵は舌を出しながら、そう答える。

 私はお道化る葵を尻目に、学生たちの列の最後尾に並んだ。葵は私のすぐ後ろに並んでいる。

 うちの学校は公立高校には今時珍しい学食が存在する学校で、昼時になると大して使ってもいない脳みそに栄養を届けるべく、多くの学生がやって来る。私はいつもこの学食に来ると挑戦していることがあるのだが…

 「薫、前空いたよ」

 後ろから葵の声がする。気が付くと私の前に人はおらず、食券機がすぐ目の前にあった。私の順番がやって来たということだ。私はいつもながら、どれにしようか食券機のボタンを目で追った。

 日替わり定食、和風定食、ハンバーグ定食、焼肉定食、から揚げ定食、かつ丼、天丼、サラダバー、ドリンクバー、カレーライス(甘口)、カレーライス(中辛)、カレーライス(辛口)、グリーンカレー、インドカレー、中華料理、韓国料理、モンゴル定食、タイ料理、ベトナム定食、カンボジア定食、パキスタン料理、アフガニスタン料理、トルクメニスタン料理、カザフスタン料理…

 「ねぇまだぁ?」

 後ろから葵の声がする。今日はカザフスタンまで行けたか。

 私は悠然とカザフスタン料理のボタンを押すと、明日こそはアジアを脱出しようと心に誓うのだった。

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