深黄、荼毘に付される。

 晴天。青空とかなんて言葉じゃ足りないくらいの。


 身を焦すほどの烈火を、感じたことはあるだろうか。

 嫉妬でもいい。人を愛するあまり盲目的になり、狭心のさなかめらめらと燃える炎でもいい。もしかしたらその人は緑色の瞳をしているかもしれないね。

 焦燥でもいい。心が焦げつくほど飢え渇き、のたうちまわりたくなるのもわかる。はしゃいだあとの喉の渇きのように、恵みを得ればそれは潤されるのだろうか。

 怒りでもいい。心頭に燻る火種を大きく育てるもよし。炭化した心をくべてさらにさらにでもよし。延焼を呼び周囲を巻き込むほどの怒りに身を任せたことはあるか。


 そしてそのどれでもない終を知っているだろうか。


 ああ。あそこで燃えているのは、暗い夜道で握った手。ほっそりとした白い指を絡めて恥ずかしそうに歩く彼女を、おれは頭ひとつ分上から見ていた。魔法のような手だった。あまりもので旨い肴を作ったり、ほつれた裾を縫い直したり、その手で撫ぜられれば不安もどこかに消し飛びそうだった。

 ああ。あそこで燃えているのは、花のようなかんばせ。金木犀ような良い香りのする頬。しなやかでつややかな髪。薄く慎ましやかな唇。小ぶりな鼻。そして鳶色の瞳。

 ああ。あそこで燃えているのは、抱きしめることを夢にみた躰。おれに勇気がなかったばかりにただの一度も抱きしめることのなかったたおやかな胸。細い腰。薄く色づいた肩。幸薄そうな薄い背中。


 火葬場の煙突から登る煙は、紫煙とそう変わりなかった。ただゆらゆらと細くたなびく様は、少し、見ていて心細かった。

 隣にいた奥の兄がおれを励ますように言う。

「秋吉くん、みてごらん。風もなく晴れでよかった。煙がまっすぐ上に登ってゆくだろう? あれを伝って、死者は天国へ行くのさ。」


 ならばおれの遺体を焼くときは、火葬場をひっくり返さなければならないなと思った。


「はじめましてこんにちは。」

 相対したソレに声をかける。

「まさに化けの皮の下、だな。はじめまして。本当のおまえ。」






「青空」「煙」「綱渡り」

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