夏平、瞳で語る。

 日差しの強い夏の日だった。一緒に散歩をしようと言ったはいいもののあまりにも暑く連れと日陰で二人してうずくまっていた。

 ミンミンだかカナカナだかワンワンだかニャアニャアだか蝉が鳴いている。煩いと言ってしまえばそれで終わりだが、その声をなんだか嫌いにもなれなくて。

 とんとん、と肩を叩かれる。

「どうしたんだい梔子。」

 これ、と差し出された指につままれていたのは四葉だった。

「ああ、クローバーかい。よかったなぁ梔子。幸せになれるぞ。」

 彼女はにっこり笑って、ずいとそれをぼくに寄越そうとする。どうぞ、あなたにあげる、と言っているようだった。

「いやぁ、ぼくはいらないよ。」

 そういうと女はひどく寂しそうな顔をした。

「あ、いや、ちがうちがう。見つけてくれたのは嬉しいんだ。ぼくのためにありがとう。礼を言うよ。でもぼくはこれを、おまえの幸せのために使って欲しいんだ。」

 女はきょとんとした顔で小首を傾げる。頭頂で一本に結った髪がくるりと揺れる。

 山梔色の瞳がこちらを見つめてくる。彼女の瞳は実に雄弁だった。彼女の言いたいことは全て彼女の瞳が代弁してくれる。

 まあ、言いたいことは語るが言いたくないことはしっかりと隠し通す利口な瞳だ。

「そうか……ならこういうのはどうだろう。押し花にしてしおりを作っておまえにあげようか。」

 それでもなんだかもにゃもにゃ言いたがる梔子のそばへ寄って、そっとつぶやく。

「おまえがぼくに幸せになってほしいように、ぼくもおまえに幸せになってほしいんだよ。」

 彷徨わせていた視線を固定させるように頬に手を添える。汗ばんでしっとりした頬が日で焼けていた。一晩赤くなるだけでしっかり冷やせば黒くはならないのを知っている頬。ぼくの口づけを何度か受け取った頬。たった一度だけ打ったことのある頬。その時飴玉のような涙が伝った頬。

彼女の瞳がこちらを向いて、目と目が合う。


 ぼくの瞳は、彼女にこの想いを伝えられただろうか。

 溢れんばかりの愛を、彼女に伝うことができたら、どんなに、どんなにやくざな目でも宝物だ。






「四葉」「ポニーテール」「幸せ」

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