第689話 ぼっさんの現状とプリニオの目的
結局、飯を食いながらの対策会議では良い対策が出る事は無かった。それだけ、プリニオがシャーロット支持派に回る事を想定していなかったのと、プリニオ自身の立ち回りが俺たちでは敵わない程上手い為だ。
そもそも、俺たちは元冒険者や人外であり、物理的に立ち回るのがメインの仕事であり、政治的な立ち回りは専門外である。俺の様な名の知れた冒険者やシュリやカローラの様な強敵相手に、素人の冒険者が手も足も出ないのと同じように、政治の世界で食ってきて、一般人が昇りつめられる最高位である宰相まで上り詰めたプリニオに策謀で勝てないのは当然の事だ。
これがただの人間同士の権力争いであれば、相手が悪かったと諦める事もできるが、今回の一件は魔族が関わっており、下手すれば人類の存亡に直結するので、簡単に諦める事ができない。
かと言って、物理的・強引な手段を持ってプリニオを排除すれば、今度は俺や俺の所属するイアピースが人類から非難される立場になる。
つまり、カイラウルの事を見過ごせば、カイラウルが魔族の橋頭堡となり、物理的な手段をとれば、俺が例え聖剣の勇者であっても人類からの支持を失い、下手すれば追われる身になる。魔族は不自由な選択を迫っているようなやり方なのだ。
聖剣が言っていたように、マジで悪辣でやらしいやり方をしてきやがる… 普通、魔族ってもんは脳筋で力のゴリ押しをしてくるもんじゃないのかよ… マジで陰湿すぎるわ… くっそ…聖剣の言うには魔王は女じゃないかって話だから、俺が倒した暁には…『今までの恨み…お前の身体で晴らさせてもわうわ!!』とかいって、マイSONに協力を仰いで蹂躙してやりたい…そして、『くっ! お、お〇んぽなんかに…負けたりしないわ!』と抵抗したところに、『クックックッ… 減らず口がまだ叩けるようだな… その口を塞いでくれるわ!!』とかいって、その口をマイSONで塞いでやって…
そこまで妄想を膨らませていた所で、俺は自分に注がれる視線に気が付く。はっとその視線の元を見るとシュリがジト目で俺を睨んでいた。
「あるじ様よ…まだ、その癖が治らんようじゃのぅ…」
しまった!? 聞かれていた!?
「いや…お、俺は…別に変な事なんて…考えてないぞ?」
俺の目がスマホのバイブレーションより激しく泳ぐ。
「お〇んぽなんかに負けたりしないとか…言っておったが?」
「そそそ、そんなイカガワシイ事じゃない… お…『おさんぽ』…の事だ…」
「なんで『おさんぽ』に負けるとか勝つとかの話になるんじゃ? それに、『おさんぽ』で何の減らず口を漏らすのじゃ?」
「…いや…その… 日々の日課にしたおさんぽを… 今日は雨だから行きたくないなぁ~って… 思う時があるじゃん… だから…その言い訳の減らず口とか…自分に負けるとか…そんな事だよ…」
俺はしどろもどろになりながらも、なんとか言い訳を言ってのける。
「…まぁ良いわ…」
シュリは呆れたように溜息をつく。…誤魔化せたか?
「シャーロットもミリーズ殿も出払っておるし、部屋の中にはあるじ様の妄想の事を知っておる者たちしかのらぬからのぅ~」
「…誤魔化せていなかったか…」
俺は項垂れて呟く。
「当り前じゃ! 妄想をだだ漏れさせておるあるじ様の顔で何の事を言っておるのかバレバレじゃ! そんな事よりも教会の物より、特別勇者のぼっさんの事を記した手紙をあずかっておるのじゃろ? もう読んだのか? あるじ様よ」
シュリの方からぼっさんの事に話題を切り替えてくれる。
「おぉ、そうだった、ぼっさんの事を書かれた手紙を読まないとな…」
セリカからカローラに宛てた手紙も預かっていたのだが、渡しそびれてしまったので、シャーロットの護衛から戻ってきたら渡してやらんといかんな…
そんな事を思いながら収納魔法の中から手紙を取り出す。
「なんと書いてあるのじゃ?」
「ちょっと待てよ、今広げるから…」
隣のシュリも手紙が見えるように手紙を広げると、達筆な字で文章が書かれている。これは恐らくぼっさんの字ではなく、あの教皇の字であろう。
「えっと…何々…」
その文面をシュリと二人で読んでいくと、次のような事が書かれていた。
現在、教会と敵対する組織、つまりカール卿の残党であるが、教会やホラリスからその一派を排除したものの、国外に逃げ出した者たちを追跡・捕獲しているのであるが、最近、その者たちがどこかから支援を受けたようで、その潜伏先に教会の追手が踏み込んだ時に、反撃され死傷者が出るようになったそうだ。通常なら教会の最新鋭装備を纏った者に、そこらの武器屋で売っている様な装備では敵うはずも無いので、敵の装備を確認したところ、見た事の無い技術を使っており、これまた見慣れない文字が彫り込まれていた事に気が付いた。
そこでその見慣れない文字がなんらかの効果をもたらす呪文のようなものでは無いかと、教会の技術部に調査させていたが一向に解明できず困っていた所、たまたまホラリスに訪れていた特別勇者に技術協力をお願いしたところ、その文字が現代日本で使われている日本語だと判明したそうだ。
そして、その文章の内容を解読したところ、それはぼっさんの言葉で、魔族につかまっている事や、無理矢理武器を作らされている事、また奇妙な生体兵器の開発や、人体錬成をさせらていて、俺や特別勇者に救助を要請している内容であった。
では、ぼっさんはどこに囚われているのかというと、夜の星の位置や、魔王領全域に取り囲む障壁の見え方から察するに…
「魔王領の中かよ…」
俺は絶望した声で呟く。
「その場所はちと…厳しいな…」
隣で一緒に手紙を読んでいたシュリも呟く。
「ぼっさんの持つ特別勇者の知識や技術を魔族に渡してはならんけど…流石に魔王領に助けに行くのは…無理過ぎる…」
俺はぼっさんを魔族の手に私してしまった事を歯噛みする。
「しかし、既にぼっさんは魔族の手に落ちたのであろう? そうすると、あの駐屯地にあったような凄い兵器が魔族の元で作られてしまうのか?」
シュリは、銃器やライトセーバーの様な武器だけの事ではなく、俺が大型魔族人を倒した神の杖の事を言っているのであろう。
「どうだろう…特別勇者の持つ知識や技術を完全に再現した武器を持った者なら、例え教会のフル装備の親衛隊相手でも、逆に返り討ちにして逃げ切っているはずだ。しかし、死傷者が出る程度で収まっている所を見ると、完全には再現出来ていないようだな… 確かにぼっさんは色々を知識や技術を持っていたが、ぼっさん一人で再現できるものでもなく、また製造する特別な施設も必要になる」
「うーん、例えて言うなればカズオが最高に美味い料理を作れるとしても、使いやすい優れた包丁や鍋などの道具、畜産家が愛情をこめて育て上げた良く肥えた家畜、農家が丹精込めて収穫した農産物がなければ、カズオ一人を攫っても最高に美味い料理は作れんというかんじか?」
「ん…ちょっと、分かりずらいが…まぁ、そんなもんだな… 特にあの大型魔族人を倒した兵器なんてぼっさん一人ではとても再現出来んだろうな…」
シュリの例え話と俺自身の解説で、今すぐに特別勇者の知識や技術を魔族が再現できない事に安堵する。恐らく、完全再現する為には、特別勇者の技術者全員を捕まえないと無理であろう。
「なるほど、すぐにはあの恐ろしい兵器を再現出来ん訳じゃな? しかし、この辺りの所が気になるのぅ…」
「この辺りってどの辺りだよ?」
俺は視線をシュリからシュリが指差す手紙の上へと移す。
「この生体兵器うんぬんの所じゃ」
「生体兵器か…」
その辺りの箇所は俺も気にしていた所である。
「最初はあるじ様が退治した魔族人の事かと思ったが、その頃はまだぼっさんが誘拐されておらぬので時系列が合わぬ、ではなんの事じゃと思う? わらわたちがまだ見ておらぬだけで、魔族は新しい魔族人のようなものを開発しておるのか?」
「どうだろう…俺や特別勇者はなんとか魔族人を倒せるけど、それ以外の者は魔族人に手も足も出ないと思うぞ? 現状でも人類をオーバーキルできる者をさらに強くするよりも、量産出来るようにした方が…」
そこまで言って俺はある事に気が付く。
「もしかして、教会でアシュトレトを使っていた司教が薬を飲んで魔族人になっただろ? あんなのをぼっさんは開発させられているんじゃないか!?」
「それなら時系列的にも納得できるのぅ…」
シュリが眉を顰める。
「あんなのが大量生産されたらたまったもんじゃないぞ…しかも、薬を飲めばどこでも出現させられるなんて…対処しようがねぇ…」
自爆テロならその場の一瞬で終わるが、魔族人テロの場合は魔族人を倒すまで終わらないので質が悪い… そんなのあちこちでやられたら…社会生活が成り立たん…いつどこでも戦場の最前線になり得る状況だ…
「では、あるじ様よ、その次の人体錬成うんぬんとあるが… これは魔族人を予め人間の姿に見せかけて作り、人間社会に送り込もうというのか?」
「…あり得るな…昔、似たような話を聞いた事がある…」
あれは確か…ゼイリブって映画だったかな? そこらの人がエイリアンに入れ替わっている話だったはずだ。
「という事は…あるじ様… プリニオのやろうとしている事は…カイラウルの人々を魔族に置き換えていく事が目的なのではないか!?」
俺はそのシュリの言葉に戦慄が走ったのであった。
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
pixiv http://pixiv.net/users/12917968
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