第690話 困った時のマグナブリルえもん
ぼっさんの状況を示した手紙で、プリニオ、そして魔族の真の目的を見抜いた俺は居ても立ってもいられない状態になり、すぐさまシャーロットにこの情報を伝えたいが、今、シャーロットは国葬の後始末や、次期皇帝の即位式に忙しくて部屋に戻っては来られない。だから、動物園のストレスMaxの動物が檻の中をぐるぐると歩き回る様に、俺も部屋の中を意味もなくぐるぐると歩き回っていた。
「なぁ…あるじ様よ…」
そんな俺にシュリが声を掛けてくる。
「なんだよ、シュリ…」
俺は部屋の中をぐるぐると歩き回りながらシュリの方に向き直らずに答える。
「焦る気持ちは分かるが…もうちょっと落ち着く事はできんか?」
呆れた声で言葉を掛けてくる。
「落ち着いているぞ…ただどう対処するか考える為に、こうして歩き回って脳に血流を送っているんだよ…」
そんなシュリに適当に言葉を返す。
「いや、考えておるのなら、先にやる事があるじゃろうて…」
「先にやる事ってなんだよ?」
俺はシュリの言うやる事が気になって立ち止まってシュリを見る。
「カイラウルに到着してから、矢継ぎ早に色々起きて忙しいのもあったが、そろそろ一度、城の方に連絡せんでもよいのか? それに城におる者に相談すれば、また違った意見が貰えるかも知れぬぞ?」
「あっ」
俺は丸い目でシュリを見る。
「あっ…って…あるじ様、城に連絡を入れるのを忘れておったのか?」
「いや…城にいる人間に相談すれば…という所に…気が付いただけだ…」
「あるじ様よ…そういう言葉はわらわから目を逸らさずに言ってみよ」
「ぐぬぬ…」
俺は返す言葉が無かった。
「まぁ良い、とりあえず城に連絡を入れるぞあるじ様、プリニオの政治策謀の手腕に参っておるようじゃから、そう言う事に詳しそうなマグナブリル殿にでも相談すれば、何か良い助言が貰えるじゃろうて」
「確かに…こんな時こそのマグナブリルえもんだよな…」
今の俺はノブ太君の気持ちがよく分かる。
「マグナブリルえもん? 何の事か分からぬが、馬車の所へ行くぞ、あるじ様」
そんな訳で俺とシュリは早歩きで城への連絡用魔道具のある俺たちの馬車へと向かう。
「しかし、ディートが作ってくれた連絡用魔道具を使うのは久しぶりだな… 聖剣を手に入れる時にホラリスに行った時以来か?」
「あぁ、元の世界に飛ばされておったあるじ様にとってはそうなるのかのぅ… あるじ様が消えた後は、あれで毎日のように城と連絡をとっておったのじゃぞ?」
俺が消えた事でマグナブリルが色々やり取りしてくれたみたいだからな…
「そうなのか…まぁ、そうなるわな…しかし、あの魔道具、馬車に取り付けたけど、こういう時は取り外せるようにしておいて、部屋の中でも連絡できるようにするべきだよな」
「そうじゃのぅ…あるじ様だけの所為ではないが、連絡するのを忘れるからのぅ… よし、馬車が見えて来たぞ」
馬車の扉を鍵で開けて、俺とシュリは馬車の中へと入る。そして、連絡用魔道具の設置されているいつもの席に向かうと、連絡用魔道具の水晶が赤く点滅しているのが見えた。
「あー今まで、何通も連絡が来ておったようじゃのぅ…」
その点滅を見てシュリが声をあげる。この点滅は家の電話の留守電のようなもので、城より連絡が来て受信している事を示している。
「完全に忘れてたもんな…」
「やっぱり忘れておったのじゃな? まぁ、わらわも人の事は言えぬが…」
そう言って、二人でソファーに座って連絡用魔道具を稼働させて城からの連絡を見る。
『そろそろ、カイラウルに着きましたかな? マグナブリル』
マグナブリルが書いたと思われる文章が魔道具の水晶からの光でテーブルの上に表示される。
「おぅ…早速、マグナブリルからか…」
「まだまだ、連絡がたまっておる様じゃのぅ」
『ティーナです。ご無事ですか? イチロー様』
ティーナからも連絡がある。
『寂しいわ、ダーリン…早く戻ってきて… 貴方のハニーより』
プリンクリンか…
『イチロー、ティーナもプリンクリンもマグナブリルさんも連絡を待っているわよ アソシエ』
『アソシエさんから、魔導が壊れているんじゃないかって言われていますが… 連絡届いてますよね? ディート』
すまん…ディート、俺が連絡するのを忘れていた所為で故障したとアソシエに思われたんだな…
『マリスティーヌです。アイリスさんの発作の間隔が段々短くなってきて、ほぼずっと眠ってもらっている状態になってます。イチローさん、早くお戻りください…』
「マリスティーヌがアイリスの対応をしてたのか… もうずっと寝かしておいた方がいいんじゃないか?」
「酷い事を言うのぅ…次が最後の連絡の様じゃな…」
テーブルの上に最後の連絡が表示される。
『この連絡の後でも返事がないようでしたら、エイミー殿に頼んで捜索隊を出す予定でございます。早急にご連絡を願います。 マグナブリル』
「ぶっ! マズイ! 俺たち遭難したとでも思わてるぞ! すぐに返信を返さないと!! シュリ! 書くもの渡してくれ!」
「あい! あるじ様!」
俺はシュリから紙とペンを受け取ると、速攻で返事を書いて返信する。
「『大丈夫だ、問題ない』…返信と… 間に合ってくれよ…」
俺は祈る気持ちで返信ボタンを押す。すると連絡用魔道具がテーブルの上の返信をスキャンのように読み取っていき、送信完了の青点灯が点く。
「なんとか間に合ったか?」
「あっ あるじ様! すぐに向こうからの返信が届いたようじゃぞ!」
テーブルの上にすぐに返信が表示されていく。
『大丈夫だ、問題ない…ではなくて、逐次連絡するように申し上げていたはずですが…何故、今まで返信が帰ってこなかったのか納得のいく理由を説明してもらえますかな?』
マグナブリルの怒りが滲み出る筆跡の返信が表示されていく。
「やべぇ…マグナブリル…滅茶苦茶怒ってるぞ…しかも返信が早かったし… もしかして連絡用魔道具の前で出待ちしてたのか? …ここは壁の中の王子が天地開闢から話をしようとしたみたいに、長々と返信していけば、その内呆れて怒りが収まっていくんじゃないか?」
「いやいやいや、あるじ様、マグナブリル殿には逆に火に油を注ぐような事になると思うぞ?」
シュリが心配そうな顔で助言してくる。
「…やはり、そう思うか? じゃあ、正直に連絡し忘れていた事と、今まで起きた事を説明していくか…」
俺はシュリの助言を素直に受け入れて、正直に『すまん、連絡を忘れてた。これからカイラウルで起きた事を纏めるから待ってくれ』と送信する。
「あるじ様よ…またすぐに返信が帰って来たぞ…『カイラウルでの出来事をまとめていたから時間が掛かっていたのだと思っていたのに、今から纏めるのですか?』と…返ってきておるぞ…」
「うぉ! マジでマグナブリルの奴、怒ってんな… シュリ、何か適当に返信して、時間を稼いでくれ!! 俺はその間に今まで起きた事を速攻でまとめるから!!」
「えっ!? わらわが返信するのか!? いや…やってみるが、あまり期待するでないぞ…」
こうして俺とシュリは、今日提出する宿題を授業前に仕上げる子供のように、二人して返信を書き始めたのであった…
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
pixiv http://pixiv.net/users/12917968
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