第688話 暗殺できない理由 

 プリニオの暗殺は不可能と告げるネイシュに皆の視線が集まる。すると、ネイシュは口をもぐもぐと動かして、口の中のものをゴクリと飲み込む。



「もう一度言うけど、今のプリニオをアルフォンソのように暗殺するのは不可能…殺せない…」



 そうして、再びネイシュはプリニオの暗殺は不可能だと告げる。



「ネイシュ、ちょっと待ってくれ、殺せないという理由は何なんだ?」


 

 俺も口の中の物をゴクリと飲み込んで尋ねる。



「プリニオは…アルフォンソの時に私に一度暗殺されているから常時、警戒しているのもあるけど、本当の暗殺できない理由は、アイツの護衛… メイドの姿をしているけど、かなりの手練れ… 私では勝てないと思う…」


「えっ!? ネイシュでも勝てない相手なのか!?」



 自分より相手の方が強いと素直に認める言葉に驚く。



「うん… 私は体格的や戦闘能力的にそれ程優れている訳でもないし、そもそも私は暗殺が専門で戦闘は専門でもない… その上で、プリニオを暗殺しようと思うとあのメイドが先に私の殺意に気が付くから、先ずあのメイドを倒さないとプリニオに手は出せない… でも、戦闘能力としてあのメイドの方が私よりも強い…」


「うーん…あのメイドの方が強いって…もちろん、ネイシュが使う特殊道具や毒物を使ったうえでの話なのか?」


 確かにネイシュは体格や筋力を使った剣士のような戦い方は不得意だ。だから、毒や暗器を使った搦手の戦いをするのだが、生半可な相手では手も足も出ないはずである。


「そう… ここ数日、シャーロットの護衛に就きながら、プリニオとあのメイドと顔を合わせる事があった、あのメイドは勿論シュリやカローラ、ポチの強さにも気が付いて警戒していたけど、一番警戒していたのは私… 毒などの暗殺対策に警戒していた… 私のやり方に気が付いている…」


「となると、相手のメイドもネイシュの様な暗殺や対暗殺の訓練を受けていて、その上で戦闘力だけ取って見ても、ネイシュより上回っているということか? あまり信じられんな…そいつ普通の人間じゃないだろ…」


 ネイシュは子供の頃から暗殺教団のような場所で四六時中厳しい訓練をさせられていた存在である。そんな人間やそんな機関がごろごろあるなんて思いたくもない。もしかして、そのメイドはネイシュがいた暗殺機関の人間なのか? でも、それならネイシュがその事に気付くはずだし…


 そんな事を考えていると、カローラが口を開く。


「イチロー様の仰る通り、あのメイドは普通の人間では無いと思いますよ」


「わぅ! ポチもそう思う! 人間じゃない! 魔族!」


 ポチも続いて声をあげる。


「えっ!? 人間ではなくて魔族!?」


「はい、私は魔族かどうかまでは分かりませんでしたが、人間の様な血の匂いは感じませんでした」


「わぅ! あのメイド、人間の匂いしない、前に嗅いだことのある魔獣や魔族人に近い匂い!」


 カローラだけでなく、フェンリルのポチまで言うんだから、あの女が人間でなく、魔族であることは確定になる。


「じゃあ、そのメイドが魔族であることを公にしてやれば、プリニオが魔族と繋がっている事も明らかになって追放できるんじゃないのか?」


 俺はカローラとポチの言葉に鼻息が荒くなる。


「それは無理よ、イチロー…」


 するとミリーズが横から声を掛けてくる。


「なんでだよ、ミリーズ、いい作戦だと思うが?」


「え? それ本気で言っているの? イチロー、自分自身の身の回りを見てみなさいよ… カローラにシュリ、ポチ、カズオ、それにアルファー達蟻族… 貴方自身も魔族や人外の仲間がいるのよ? そのイチローがプリニオの事を糾弾できるの?」


「あっ… そういえばそうだった…お前ら、元々は人外だったんだな…普段、余りにも普通に接しているから忘れてたわ…」


 そう言って、ミリーズが名前を上げた仲間たちを見まわす。


「まぁ、私は修道女の資格も得てますし、日の光も克服しましたから、大手を振って人前に出れますね… まぁ、買い物以外では人前に出たくありませんが…」


 カローラが謎の自信に満ちたドヤ顔をする。


「あるじ様がわらわが誇り高きシルバードラゴンである事を忘れておるようじゃが、まぁ…種族などを気にすることなく、仲間として認識してくれているので悪い気はせんの」


 シュリは口角を少し上げながら答える。


「あっしはハイオークでやすから、本来であれば人前に出るだけで討伐されてもおかしくない存在でやすが、旦那のお陰で、人間社会で良い思いをさせて頂いてやすからね」


 今のカズオは他の人間に討伐しろと言われても、俺だけでなく、カズオ飯を食った事がある奴なら必死になって擁護する事であろう。


「わぅ! イチローちゃまはポチにとっての御主人ちゃま!」


 ポチはそう言って俺にしがみ付いている。


「私たち蟻族は、いつまでもキング・イチロー様と共にあります」


 アルファーもなんだか熱意を秘めたような顔で宣言する。


 こうして、皆が俺を見つめてくる。


「ねぇ、イチロー…プリニオを糾弾するために今更、この子たちを排除してプリニオが魔族のメイドを使っている事を糾弾できるの?」


 最後にミリーズが真顔で見つめてくる。


「…出来ねぇな… 逆にプリニオがそんな事を言って来たら、ガチギレするかも知れんな…」


 俺はポツリと呟くように答える。


「でしょ? 多分、プリニオを糾弾しようにも同じことを言ってくると思うから、プリニオが魔族のメイドを使っている事で糾弾するのは無理よ…」


 ミリーズがほっとした顔で諭すように話しかけてくる。


 まぁ、ポチは元々掛けがえの無い大事なペットのように扱ってきたが、カローラ一家が攻めて来ていてカローラが疑われた時や、シュリがイグアナになってしまったと思った時に、もはや、情が移り過ぎて見捨てる選択なんて思い浮かばなかったからな…

 カズオに関しても、もはやカズオ無しでは食生活が成り立たん状況になっているし、アルファー達蟻族も甲斐甲斐しく領地の為に尽くしてくれているから今更見捨てる事は出来ない…


 やはり、前に聖剣が言っていたように、俺は一介の冒険者の頃とは違って、今の俺には捨てる事の出来ない抱える物が多くなりすぎたな… まぁ、今の所、それが重荷にはなってないが…



「そうだな…プリニオが魔族のメイドを使っている事は俺には糾弾出来ねぇな…別な方法を考えないとな…」



 こうして、俺たちは皆で対策を話し合ったのであった。


連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei

pixiv http://pixiv.net/users/12917968

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