第687話 対策会議
漸く俺たちの所へ戻ってきたシャーロット達。その顔には疲労が色濃く表れており、外の景色で時間を確認すると、どっぷりと日が暮れていて早朝から国葬に携わっていた事を考えると、その疲労は当然のことである。
「只今、戻りましたわ…」
シャーロットはマラソンランナーがようやくゴールに辿り着いて、緊張と精神力の限界がきたかのように、ソファーに座り込む。
「イチロー様、疲れました…」
「わらわは腹が減ったぞ…」
「わぅ! ぽちもお腹空いた!」
「キング・イチロー様、只今戻りました」
「イチロー、ようやく戻った…」
シャーロットの護衛についていたカローラ、シュリ、ポチ、アルファー、ネイシュの五人も次々とソファーに腰を降ろしていく。シャーロット達は皆、疲れ切った顔をしており、プリニオの件もあって、予断が許されない状況ではあるが、先程の俺とミリーズたちだけという寂しい部屋の状態から、いつもの騒がしい部屋の状態に戻って俺は少し安堵する。
「あっ! シャーロット嬢たちも戻られたんでやすね? では、お食事でもなされやすか?」
シャーロットたちの声を聞きつけて、俺たちが部屋に戻ってから、クリスと一緒にずっと台所に籠っていたカズオが顔を出す。
「おぉ! カズオ! 飯を作って待っておってくれたのか!」
「へい、葬儀でお疲れで腹も減っておられるんじゃないかと思って、作っておりやした! 皆さんのお好きな鯨尽くしでやすよ!」
そう言ってハリハリ鍋をミトンで掴んでやってくる。
「…色々あって疲れて混乱しておりますが… こういう時こそ、滋養ある物を食べて英気を養わないとダメですわね…」
鯨料理の匂いを嗅いで、ソファーにもたれ掛かっていたシャーロットがムクリと身体を起こす。
「そうだな…色々と話し合わないといけない事があるが、先ずは飯を食わないとな」
俺自身も色々あって考え込んでいたが、鯨料理を目の前に出されて空腹であることを思い出す。
「今回は鯨だけではなく、牡蠣もご用意いたしやしたので、ハリハリ鍋と一緒にお召し上がり下せい」
そう言って殻を剥いた牡蠣もテーブルに並べる。
「えっ? ハリハリ鍋と一緒にって、鍋の中に牡蠣を入れたら縮まないか?」
「旦那、鍋で煮込むのではなく、こうやって牡蠣を摘まんで、鍋の中でしゃぶしゃぶと汁に潜らせる感じにしてからお召し上がり下せい、これなら縮みやせん」
カズオは牡蠣を摘まんで鍋の中にしゃぶしゃぶと潜らせ、程よい所で引き上げて、パクリと食らいついて見せる。
「おぉ~なるほど! そうすれば確かに縮まないな! 俺もやってみるか!」
俺もカズオのやっていたように、牡蠣を箸で摘まんでハリハリ鍋の中に潜らせて、程よい所で引き上げて、そのまま、パクリと口の中に放り込む。しゃぶしゃぶした牡蠣は普通の生牡蠣と違ってほんのり温かく、その上で、鯨肉の鹿の子からでる脂と鍋の汁の旨味が絡みつき、その上で、噛み締めるごとに、牡蠣そのものの旨味が口の中に溢れ出る。
「ウホッ! マジうま! これめちゃくちゃうめーぞっ!!」
俺は口の中でほこほこと牡蠣を躍らせながら声を上げる。それを聞いていた皆が牡蠣に箸を伸ばして、自分たちもしゃぶしゃぶし始める。
「まぁ! 本当に美味しいですわっ! 今、大変な状況なのに、こんな贅沢をしていいのかしら?」
シャーロットも口の中で牡蠣をほこほこさせながら声を上げる。
「大変な状況じゃからこそ、英気を養わねばならんのじゃろ? 其方自身が言っておったじゃろ、しかし、この牡蠣の食い方はほんに美味いのぅ~」
シュリも口をほこほこさせて、シャーロットの言葉に答える。
「キング・イチロー様の傘下に入る前は捕まえた獲物をそのまま食べておりましたが、もうあの頃には戻れません」
アルファーも美味そうに口をほこほこさせる。このアルファーの姿を見る限り、アルファー達蟻族が元の野生に戻り、イナゴの群れのように獲物を食い荒らしていく事も無いだろう。俺がいなくてもちゃんと人間と文化的な交流を行って、人間と共存できるだろう…それなのに…
俺は牡蠣をほこほこさせながらとある人物を見る。
「なんですか? イチロー殿、私は他人の分まで食べていませんよ」
クリスが牡蠣をほこほこさせながら答える。シュリもポチもそしてアルファーも目を離しても、もはや野生に返る心配は無いが、どうしてコイツだけは目を離した途端、野生に返るんだ? 確かに家畜化というか人慣れしない品種もいるが、クリスは皆と同じ人間だろ…という事は、クリスという個体が特別人慣れしない個体なのだろうか…
「何でもない…気にするな…」
クリスにそう答えて俺は食事を続ける。
そして、ある程度、腹が落ち着いてきたところで、食事をしながら話を続けることにした。
「シャーロット達が帰って来るまでの間、ミリーズと二人で今後の対策を話していたんだが…そっちはどんな感じだったんだ? プリニオがシャーロットを推してきてるけど、どうなんだ? 排除できそうな立ち位置なのか?」
俺が話しかけるとシャーロットはモグモグしていた竜田揚げをごっくんと飲み込む。
「ダメですわね… プリニオは私を皇帝に推す派閥の中心人物の様です…どうやら、私が支持を集め回っている裏で、私に協力するように皆に根回ししていたようで、到底排除できるような状況ではありませんわね…」
「やはりか…となるとプリニオが根回しして回った貴族の重鎮たちは、シャーロットが帝位に就いても信頼できる手駒としては使えないって感じか… 次に後宮の女たちを味方につけるって話もしていたんだが、そちらの方はどうだ?」
俺はさらしくじらを口に運ぶ。
「そちらでしたら、もっと望み薄ですね… 後宮は解体される事になって、後宮にいた女たちは実家に戻る事になりました…」
「えっ!? マジか!?」
後宮の女たちが実家に戻されるとは思いもしなかったので、俺は驚く。
「はい…後宮に送り込んだと言っても、自分の血を引いた娘ですから…ずっと会いたかった者が多かったのですよ… なので、私が帝位に就けば後宮は解体されて娘に合えると…プリニオが貴族の重鎮たちへの根回の材料にしていたようで… なので、貴族たちも後宮の娘たちもプリニオに恩義を感じている状況です」
「くっそ!アイツ! どんだけ悪知恵が回るんだよっ!」
俺の思い付き程度の策略では、全く歯が立たねぇ… まるで、剣でノブツナ爺さんと戦っている様な感じだ… というか、剣の道でもその道を究めた剣豪のノブツナ爺さんのように、プリニオは策謀の道を極めた存在とでも言うのか?
でも待てよ…剣だけではとても敵う事もできないノブツナ爺さんでも、魔法を組み合わせたらなんとかなったり、戦いではない、飯の分野なら俺はノブツナ爺さんの胃袋を掴める…ならば、ミリーズとも話をしていたあの方法に頼るしかないか…
「じゃあ、ミリーズとも話をしていたんだが、現状、策謀ではプリニオに勝てそうにないから、この際、前にカローラが言っていた方法も手段として考えていたんだが…」
「私の言っていた方法ですか? イチロー様」
カローラは牡蠣をはふはふさせながら首を傾げる。
「あぁ、プリニオの暗殺だ… 政治的な策謀で勝てないのなら、この際、なりふり構わず、物理的な暗殺でプリニオを排除しようと思うんだが…」
俺は顔の上半分は真剣な面持ちで、下半分は口をもごもごさせながらシャーロットを見る。すると、シャーロットとは違う所から返事が来る。
「それはダメ…不可能… プリニオは暗殺できない…」
その声の主はネイシュであった。
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
pixiv http://pixiv.net/users/12917968
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