第686話 どうする?
式典が終わった後、俺たちは自室に戻り、シャーロット達はシャーロットの新皇帝内定祝いのパレードみたいなものに出ており、部屋には戻ってきていない。
俺はシャーロットの事、ぼっさんの事、ホラリスの事、その他の国でもカイラウルのような事が起きている事に、何から手を付けていいものやら混乱して頭を抱える。
「イチロー様…お茶でございます…」
そこへ、俺の様子を見て不安げな顔をしたホノカがお茶を差し出してくる。
「おぅ、すまんな、ホノカ」
礼を述べながらティーカップを口元へと運ぶと、いつもの紅茶ではなく、甘く優しい香りが漂う。
「カモミールか?」
ハーブティーを一口すすると口腔を通して香りが鼻腔に抜けていく。それと共に、俺の中で絡み合って張り詰めていた焦燥感の糸が綿あめのように解けていく。
「ふぅ」
胸の中で凝り固まっていた悪い気を吐き出しながらカップを降ろすと、ミリーズが真剣な眼差しの真顔で俺の顔を見ている事に気が付いた。
「イチロー…どうするの?」
ミリーズは重々しく唇を開いて尋ねてくる。俺とスタインバーガー教皇との話は念話を通してミリーズにも伝わっている。ぼっさんの事も、ホラリスの現状も他国でも魔族の企てがある事も、そして、先程直接自分たちの目で目の当たりにしたプリニオがシャーロットの後ろ盾になって新皇帝を推し進めている事もだ。
「先ずは、状況を整理しよう…」
俺はミリーズを見つめ返して答える。
「先ずはこの際、ホラリスの事と、カイラウルと同じようになっている他国の事はいったん置いておく事にしよう、その件はスタインバーガー教皇に任せる。今更、俺たちが首を突っ込んでも仕方が無い。今はそれよりも目の前の事に集中するのが重要だ。このカイラウルの件は俺たちしかその危険性を把握していないんだからな…」
ぼっさんの事もあるが、それも一先ず置いておくしかない。スタインバーガー教皇からの手紙はまだ読んでいないが、教皇もまだ情報の一端を掴んだだけのようなので、まだどうこうできる状態ではないであろう。それよりも二兎を追う者は一兎も得ずという諺があるように、目の前の問題に集中するべきだと考えた。
「そうね…イチローの言う通りね… 教会は私の古巣だから、気が焦ってしまったようね…」
ミリーズはそう言いながらホノカが煎れてくれたハーブティーに手を伸ばす。
「しかし…プリニオの奴がシャーロットの後ろ盾になりにくるとは思わなかったな…」
「そうね…皆、誰か適当な人物を立ててくるものだと考えていたから…」
「他の貴族の重鎮たちの支持も得て、そして玉璽も手に入れたから、誰が来ても万全だと考えていたが… それが全て裏目に出るな…」
俺は再びティーカップを手に取り、お茶をすする。
「本来なら皇帝に就いたシャーロットが目を光らせて、プリニオや魔族の企てを阻止できる状態なのだけど… 今までのプリニオやその前のアルフォンソのやり方を見ていると… そう簡単に尻尾を掴ませてくれそうには無いわね…」
「だな…今までの動きも特におかしい所は無く、ネイシュがたまたま偶然、アルフォンソと魔族が話をしている所を盗み聞きしただけだからな… それにシャーロットが目を光らせて警戒するといっても、俺の様な一領主と違い一国家の元首だ。とても全てに目を光らせるのは不可能だろう…」
俺の領地ですら、俺の預かり知らない所で物事が進んでいる時がある。国家レベルなら全てを把握するのは難しい… 例え頑張ったとしても相手のしっぽを掴む前にシャーロットの体力の限界が来るであろう。
「シャーロットに信頼できる人物がいないのも厳しいわね…」
「そうだな…あの婆さんでは城内での政治的な立ち回りは不可能だし、爺さんも歳だし色々立ち回らせるのは酷だよな…」
シャーロット一人でダメなら他の者を使おうと考えても、現状、信頼できる手駒が少なすぎる…
「ねぇ、イチロー! カスパルが死んだのなら、後宮の女性たちを仲間に引き込むのはどうかしら? カスパル亡き後後宮は解体されるだろうし、後宮の女性たちからすればシャーロットは自分の娘かも知れないのだから手をかしてくれるかもよ?」
ミリーズは少し明るい表情をする。
「あぁ、それもありかも知れんが…どうだろう…」
「どうだろうって、どういう事?」
「いやな、シャーロットの歳から考えるとシャーロットの母親は若くても30代後半か40代だろ? カスパルが比較的に熟れた身体が好きだったら残っているかも知れんが…シャーロットの御付きの婆さんの事もあるし、その歳の女性がまだ後宮に残っているか?」
俺の言葉にミリーズはあっという顔をして項垂れていく。
「そうだわ… 確かに後宮の女性たちの中にシャーロットの母親候補の女性が残っている可能性は低いわね… 逆に同年代ばかりで、自分と歳の近い者が皇帝になるって事で反発される可能性の方が高いわね…」
「あぁ、女の嫉妬って奴か…でもまぁ…後宮は解体されるんだろうし、その女たちの扱いによっては支持を得られると思う… シャーロットの手駒になってくれるかは別だけど…」
「するとシャーロットの手駒になってくれそうな人材って育成所にいる弟妹達かしら… でも、まともな子弟教育を受けてないし、若すぎるから難しいわね…」
ミリーズは頭を片手で抱える。
「まぁ…今すぐではないにしろ、先の事を見据えて教育していく事は大事だと思うが…」
すると、ミリーズがゲンドウのポーズを取り始めて悪い顔をし始める。
「…なら、イチロー… この際、カローラちゃんが言っていた、プリニオ暗殺の方向で動きましょうか… シャーロットが帝位に就くのはもう確定だし、弟妹達をシャーロットの手駒にするには時間が掛かるわ… なら、プリニオを殺してしまえば、第二・第三のプリニオが現れるまでに弟妹達を手駒に育てる時間が稼げるわよ…」
「いや…ミリーズがその方法だとシャーロットの評判が悪くなるって言ってただろ… でも、よく考えれば、皇帝に就く前にプリニオを暗殺すれば対抗勢力のシャーロットの仕業と思われるけど、皇帝の地位についてさえしまえば、あまり評判を気にする必要もないよな…逆にプリニオはシャーロット支持の立場をとっているから、シャーロットの仕業だと気付かれないようにすれば…アリっちゃアリだな…」
シャーロットが帝位にあって、宰相のプリニオが死んだあと、人事権はシャーロットが掌握できると思うから、第二・第三のプリニオが現れたとしても、シャーロットが人事権を握っている限り、再び宰相の地位に就くって事は防げる。ここに及んでカローラのアイデアが一番現実味を帯びてくるとはな…
こんな感じに、俺とミリーズが悪代官と悪徳商人のように悪い顔をして悪だくみをしている所に、漸く、シャーロット達が戻ってきたのであった。
連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei
pixiv http://pixiv.net/users/12917968
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